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国境を越えた世界遺産:トランスバウンダリー・サイト

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国境を越えて複数の国々が保有する世界遺産のことを「トランスバウンダリー・サイト(transboundary site)」といいます。

多数の国々にまたがる世界遺産をランキング形式でご紹介します。

こういう世界遺産を知っていると、世界遺産"通"です!!







■国境を越えた世界遺産:トランスバウンダリー・サイト

第1位
シュトルーヴェの測地弧
Struve Geodetic Arc

ベラルーシ・エストニア・フィンランド・ラトビア・リトアニア・ノルウェー・モルドバ・ロシア・スウェーデン・ウクライナ
登録年:2005年 登録基準:(ⅱ)(ⅲ)(ⅵ)

1816年~1855年の間にドイツ系ロシア人のフリードリヒ・フォン・シュトルーヴェが、史上初めて経線を長距離にわたって測量した地点が世界遺産に登録されています。彼はスカンジナビア半島の北端から、黒海近くまでの「265ヶ所」の地点で測量を行いました。そのうち34ヶ所が世界遺産に登録されています。地球の大きさや形状を明らかにする上で、大変重要な一歩となり、その後の研究に大きな影響を与えました。
※詳細はこちら(WHC)


Google Mapはこちら

第1位は非常に地味な世界遺産です。10ヶ国にわたっています。
マニアックだけど興味深い、この世界遺産の詳しい話はこちらの記事をどうぞ。




第2位(1)
カパック・ニャンーアンデスの道路網
Qhapaq Nan, Andean Road System

アルゼンチン・ボリビア・チリ・コロンビア・エクアドル・ペルー
登録年:2014年 登録基準:(ⅱ)(ⅲ)(ⅳ)(ⅵ)

カパック・ニャンーアンデスの道路網は、情報交換・交易・貿易のための、3万kmにもおよぶ広大なインカ帝国のネットワークです。インカ帝国やそれ以前のインフラ技術にもとづき数世紀にわたり建造されたもので、標高6,000m級のアンデス山脈の雪深い山頂から、熱帯雨林に覆われた海岸地域・肥沃な渓谷地帯・砂漠までをも結んでいるものであり、世界でも最大規模の道路網です。交易のためのインフラとしてだけでなく、社会的・政治的な重要性、農耕技術の伝播、宗教的な重要性等を象徴するものです。
※詳細はこちら(WHC)


Google Mapはこちら

第2位の6か国にわたる世界遺産は2件あります。ひとつめは昨年世界遺産になったばかりのこの物件。地図をみるとその構成資産の多さと「広がりの大きさ」が実感できるかと。




第2位(2)
アルプス山脈周辺の先史時代の杭上住居群
Prehistoric Pile dwellings around the Alps

オーストリア・フランス・ドイツ・イタリア・スロベニア・スイス 登録年:2011年 登録基準:(ⅳ)(ⅴ)

紀元前5,000年~500年頃にかけてアルプス山脈周辺につくられた111ヶ所の湖上の住居跡で、湖や川・湿地のほとりに、建物全体を杭で持ち上げられた高床式の住居群です。土地を掘削した場所もあり、新石器時代から青銅器時代にかけてのアルプス周辺のヨーロッパにおける、古代の人々の暮らしと自然環境との相互関係を伝えています。111ヶ所のうち65ヶ所はスイスに位置しています。これらの遺跡は、非常によく保存されており、彼らが豊かな生活をしていたことを伝えています。この地域での初期の農村生活の研究史料として非常に貴重なものです。
※詳細はこちら(WHC)


Google Mapはこちら

もうひとつの第2位の世界遺産がこの先史時代の世界遺産。当時は国境はなかったわけで。




第4位(1)
サンガ川流域
Sangha Trinational

コンゴ共和国・カメルーン・中央アフリカ 登録年:2012年 登録基準:(ⅸ)(ⅹ)

サンガ川はカメルーン・コンゴ共和国・中央アフリカが国境を接している地域に位置しており、3つの隣接した国立公園で囲まれたエリアです。この地域の多くが手付かずの自然を残しており、湿潤熱帯雨林の生態系を有しています。象や絶滅危惧種の西ローランドゴリラやチンパンジーの棲みかでもあります。
※詳細はこちら(WHC)


Google Mapはこちら

第4位の3か国にわたる世界遺産は4件あります。
アフリカ中央部にあるこの世界遺産は、3つの国立公園746,309haにおよび、熊本県ひとつ分の広大なサイズ。





第4位(2)
シルクロードの始点、天山回廊の道路網
Silk Roads: the Routes Network of Chang'an-Tianshan Corridor

中国・カザフスタン・キルギスタン 登録年:2014年 登録基準:(ⅱ)(ⅲ)(ⅴ)(ⅵ)

シルクロードの始点:長安・天山回廊の道路網は、シルクロードのうち、漢代・唐代の首都、長安・洛陽から中央アジア カザフスタンのジェティス(タルディコルガン)までに至る5,000kmに及ぶネットワークです。紀元前2世紀から紀元後1世紀にかけて形作られ、16世紀に建造されたものは今も利用されており、様々な文明を結び、交易活動や宗教・科学技術・学問・文化等の交流を生み出しましてきました。
※詳細はこちら(WHC)


Google Mapはこちら

こちらは現時点で「3か国だけ」で登録されていますが、今後拡大されたり、別のエリアのシルクロードが登録されたりする可能性があります。夢がありますね。




第4位(3)
ワッデン海
Wadden Sea

デンマーク・ドイツ・オランダ 登録年:2009年 登録基準:(ⅷ)(ⅸ)(ⅹ)

北海沿岸に広がるワッデン海は、海岸沿いの湿地に砂州・干潟・塩田・三角江や海洋性植物の平原・砂丘などの多様な環境がみられることが特徴で、特に渡り鳥が飛来し越冬することで有名です。2014年、オランダ・ドイツ沿岸に加え、デンマーク沿岸にも登録範囲を拡大させました。
※詳細はこちら(WHC)


Google Mapはこちら

こちらは海岸線沿いの国境を越えた世界遺産。昨年、デンマーク沿岸エリアが追加されたため、2か国の世界遺産から3か国の世界遺産になりました。
詳しくはこちらの記事をどうぞ。




第4位(4)
カルパティア山脈の原生ブナ林とドイツの古代ブナ林
Primeval Beech Forests of the Carpathians and the Ancient Beech Forests of Germany

ドイツ・スロバキア・ウクライナ 登録年:2007年 登録基準:(ⅸ)

ドイツの古代ブナ林は、氷河期以前からの陸上の生物と生態系の進化を伝える代表例であり、北半球のブナの分布を多様な環境において理解するために欠かせない場所です。この登録は、2007年に登録されたスロバキア・ウクライナの世界遺産「カルパチア山脈の原始ブナ林」(29,278ha)に、ドイツの5つの森林(4,391ha)を追加したもので、この決議により、3ヶ国にわたる世界遺産「カルパティア山脈の原始ブナ林及びドイツの古代ブナ林」となりました。
※詳細はこちら(WHC)


Google Mapはこちら

最後はヨーロッパの森林。地理的には離れていますが、合計25か所のブナの原生林で構成されています。今後、中央ヨーロッパの同じようなブナ林が追加されるかもしれません。




●トランスバウンダリー・サイトのランキング
これらをまとめたのがこちらの表です。

順位名称登録国登録国数
1シュトルーヴェの測地弧ベラルーシ・エストニア・フィンランド・ラトビア・リトアニア・ノルウェー・モルドバ・ロシア・スウェーデン・ウクライナ10
2カパック・ニャンーアンデスの道路網アルゼンチン・ボリビア・チリ・コロンビア・エクアドル・ペルー6
2アルプス山脈周辺の先史時代の杭上住居群オーストリア・フランス・ドイツ・イタリア・スロベニア・スイス6
4サンガ川流域コンゴ共和国・カメルーン・中央アフリカ3
4シルクロードの始点、天山回廊の道路網中国・カザフスタン・キルギスタン3
4ワッデン海デンマーク・ドイツ・オランダ3
4カルパティア山脈の原生ブナ林とドイツの古代ブナ林ドイツ・スロバキア・ウクライナ3



●トランスバウンダリー・サイト保有件数ランキング(国別)
一方、「国境を越えた世界遺産」を「多数保有している国」はどこか?というとこうなりました。
上位(といっても3件以上)はヨーロッパなので、「ふーん」という結果です。
No国名保有件数
1ドイツ5
2イタリア4
3フランス3
3ポーランド3
3ロシア3
3スペイン3
3スイス3
3ウクライナ3



●トランスバウンダリー・サイト登録件数の推移
参考までにこれまでの、トランスバウンダリー・サイト登録件数の推移のグラフを載せておきます。
毎年1件のペースで増えていっていることがわかりますね。現在31件の世界遺産が「国境を越えた世界遺産」です。

※登録年は最初に世界遺産に登録された年で起算しています。











トランスバウンダリー・サイトは、保全の観点で色々と困難がありますが、

人類共通の宝物を国境を越えて保全するという世界遺産条約の精神を象徴するものです。



ちなみに、早ければ2016年に日本も「国境を越えた世界遺産」を保有することになるかもしれませんね!?

登録されれば7か国にわたる世界遺産なので、このランキングでいえば単独第2位!!




・・・そう。あれです、あれ!

→正解はこちら。




●関連記事
 カンボジアとタイが世界遺産をめぐり武力紛争(2011年)
 世界遺産登録件数のランキング
 世界一孤立した有人島がこちら







世界遺産検定マイスター試験:オススメ情報のまとめ

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世界遺産検定の勉強法に関して、マイスター試験を受験する皆さん向けにいくつかネタをアップしておきます。

1級を目指す方にもオススメです。






■世界遺産検定マイスター・1級受験にオススメ図書

マイスターを受験される方は、過去問を閲覧できるとはいえ、とにかく「情報が少ない」ですよねー。

参考になりそうなネタをいくつかご紹介します。








●公式・最新トレンド

まずハズせないのは「世界遺産年報」。何度か出版社が変わりましたが中身はだいたい毎年一緒。
その年の世界遺産委員会での決議事項(新しい世界遺産や危機遺産など)に加え、どんな論点(争点)があったかなどの解説が掲載されています。
マイスター試験の「第3問の出題予想」には欠かせませんね。


世界遺産年報2015
公益社団法人日本ユネスコ協会連盟 編集

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世界遺産年報 2014
公益社団法人日本ユネスコ協会連盟

Amazon


世界遺産 年報2013
日本ユネスコ協会連盟

Amazon




●準・公式情報

そして、こちらの2冊は特にオススメ。
ユネスコ事務局長だった松浦氏と、文化庁長官だった近藤氏の著書です。


世界遺産――ユネスコ事務局長は訴える
松浦 晃一郎

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FUJISAN 世界遺産への道
近藤 誠一

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松浦さんの著書が出版されたのは2008年ですのでちょっと古いわけですが、今も十分参考になる論点ばかり。
その後の期間の世界遺産委員会(や世界遺産をとりまく環境)の「論点」や「空気感」を伝えてくれるのが、近藤さんの著書。(富士山の話だけではないですよ)こちらの記事もどうぞ。




●これもオススメ

同じく世界遺産の課題を論じているのがこの2冊。

ジャーナリストの佐滝さんは世界遺産検定マイスターも取得されていますね。
アルピニストの野口さんの著書は、富士山という切り口から世界遺産の登録・保全にあたっての課題を赤裸々に語っています。
いずれも辛口ですが、実に、考えさせられます。


「世界遺産」の真実---過剰な期待、大いなる誤解
佐滝 剛弘

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世界遺産にされて富士山は泣いている
野口 健

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これらの参考文献は、読んで面白いだけでなく、出題の予想や、過去問を自己採点してみるときなど、案外活躍すると思いますよ。






●書籍化前の最新情報

書籍以外にもオススメなのがこちら。
世界遺産検定を主催する世界遺産アカデミー研究員さんのブログ。

世界遺産アカデミー オフィシャルブログ


たとえば、こんな記事は、半年後のマイスター試験の論点にもなっています。


また、こういうのもあります。
筑波大学大学院人間総合科学研究科の公開講座です。

日本の代表として世界遺産委員会に出席したり・世界遺産年報にも寄稿されている先生方がいらっしゃるのがこの筑波大学。毎年7月に公開講座を開催しています。
入学希望者を募るのが目的のようですが、一般の方も無料で受講できます。世界遺産研究の最前線にいらっしゃる先生方の講義は、やっぱり面白いです。
 筑波大学大学院人間総合科学研究科世界遺産専攻公開講座のご案内



なお、世界遺産検定のマイスター試験の設問は、ここの先生が出題しているのでは?というウワサもあるほど。。。(真偽は不明です)

他にも、世界遺産アカデミーのWebsiteで講演会などがアナウンスされていますので、時間があれば、最前線の議論に参加してみては!?


あと、当然ながら、ユネスコ世界遺産センターのWebsiteは充実していますね。過去のニュースリリースなどをチェックしておくのもいいでしょう。
UNESCO World Heritage Centre (News)









以上、世界遺産検定マイスターを受験される方へのオススメ情報でした。



マイスターをめざす方は、それなりの問題意識をお持ちの方がほとんどかと思います。

いろいろな参考情報をもとに、論点をみつけ(=出題を予想し)ご自身の意見をうまく論述すればいいだけなんですが、

毎回「そう来たかっ!!!」と思わせる出題がされますので、慌てず、頑張ってください!!






●関連記事
 世界遺産検定 マイスターの勉強法
 世界遺産検定 マイスターの勉強法:論述が苦手な方へ




世界遺産検定合格率データを分析!(2014年度)

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世界遺産検定を受験しようかな?という方。合格に向けて頑張っている方。

やっぱり気になる「合格率」のデータについて、ざっくりと分析してみましょう。





■世界遺産検定 合格率データを分析!!

3級から順に合格率のデータとそのトレンドをご紹介していきましょう。

※現時点で公開されている2013年12月までの分が対象です。
※2014年に開催された4回分はおそらく、3月頃の公式問題集発売のタイミングで公開されるんじゃないかと推測します。
※世界遺産検定での正式な呼び方は合格率ではなく「認定率」です。






●3級:簡単に取得できるというのは本当か??

過去の記事で、8時間で合格できる! などと言っていましたが、実際の合格率はどうなのか??

開催回開催時期受験者数認定者数認定率
第1回(*)2006年6月3352141442.2%
第2回(*)2007年6月2945123241.8%
第3回(*)2007年12月155367843.7%
第4回2008年9月1824135274.1%
第5回2009年6月2029128463.3%
第6回2009年11月2134172380.7%
第7回2010年7月2488223189.7%
第8回2010年11月2294168473.4%
第9回2011年7月3733311283.4%
第10回2011年12月3285239472.9%
2012春2012年3月70760084.9%
第11回2012年7月3082232675.5%
2012秋2012年9月42939391.6%
第12回2012年12月2374170371.7%
2013春2013年3月85978291.0%
第13回2013年7月3614282778.2%
2013秋2013年9月86279792.5%
第14回2013年12月3431213062.1%

※(*)は旧試験制度の合格率です。便宜上「初級受験者数・ブロンズ認定者数/率」を記載しています。





合格率70%以上。高いときは90%を超えていますね。

注目すべきところは、グラフのギザギザ。

どうやら「春・秋の特別開催」は「合格率が高い」ようです。

受験者が頑張っているのか/やや易しい出題なのか。理由はわかりません。

この合格率なら、「世界遺産検定のデビューは3級から」でいいのでは?という印象です。
2014年以降「4級」がオープンしましたので、変化があったのかもしれませんが、詳細はまだ不明。






●2級:案外難しい??

続いては2級です。
世界遺産検定2級を取得していたら、自慢できますね。


開催回開催時期受験者数認定者数認定率
第1回(*)2006年6月33521183.5%
第2回(*)2007年6月294535612.1%
第3回(*)2007年12月1553976.2%
第4回2008年9月1462103170.5%
第5回2009年6月137555040.0%
第6回2009年11月133453540.1%
第7回2010年7月130953941.2%
第8回2010年11月147462242.2%
第9回2011年7月159596460.4%
第10回2011年12月180281345.1%
2012春2012年3月67628041.4%
第11回2012年7月171471641.8%
2012秋2012年9月39820852.3%
第12回2012年12月150560540.2%
2013春2013年3月62226943.2%
第13回2013年7月146379254.1%
2013秋2013年9月60837561.7%
第14回2013年12月163868842.0%

※(*)は旧試験制度の合格率です。便宜上「初級受験者数・シルバー認定者数/率」を記載しています。





合格率40%~60%と、結構ばらついています。

次の合格率がどうなるか?は、予想がつきません。。。。

2級・3級は併願できるので、「前回の3級合格者が多い→今回の2級合格者が少ない」というわけでもなさそうです。
1~2問の差で合否が変わる、ボーダーラインの受験者が、うまくいった場合とそうでない場合。という可能性はあります。

試験終了まで、ケアレスミスがないようにしましょう!という教訓なのかもしれません。






●1級:安定して・難しい!!

世界遺産検定で一番合格率が低いのが1級。過去のデータはこうなっていました。

開催回開催時期受験者数認定者数認定率
第2回(*)2007年6月1241814.5%
第3回(*)2007年12月49414729.8%
第4回(*)2008年9月38014538.2%
第5回2009年6月4519922.0%
第7回2010年7月3286720.4%
第8回2010年11月2444920.1%
第9回2011年7月3236520.1%
第10回2011年12月3497220.6%
第11回2012年7月40810425.5%
第12回2012年12月3978521.4%
第13回2013年7月3507220.6%
第14回2013年12月3797920.8%

※(*)は旧試験制度の合格率です。便宜上「中級受験者数・ゴールド認定者数/率」を記載しています。






おそるべき「安定感」のあるグラフです。

合格率20%ちょっとでずっと推移しています。


合格率が20%未満の場合上位20%が合格となるように調整されるので、多くのケースでその規定が適用されています。
そうはいっても、140点の認定点が132~138点へ補正される程度なので、難しいことに変わりないですね。

なお、すでに1級を取得している人も再度受験することができる「Re-Study」制度がスタートしていますが、その影響で「難しくなる」可能性も、若干はあるかもしれませんが、

どっちにしろ、今後も、難しい試験であり続けるような気がします。






●マイスター:徐々に難関に!??

世界遺産検定の最上位級であるマイスター試験。
実はこうなっていました。


開催回開催時期受験者数認定者数認定率
第2回(*)2007年6月12454.0%
第3回(*)2007年12月494469.3%
第4回(*)2008年9月3806617.4%
第6回2009年11月1044947.1%
第8回2010年11月664669.7%
第9回2011年7月402870.0%
第10回2011年12月352262.9%
第11回2012年7月291344.8%
第12回2012年12月482960.4%
第13回2013年7月241458.3%
第14回2013年12月231252.2%
第16回2014年7月211152.4%
第18回2014年12月361747.2%

※(*)は旧試験制度の合格率です。便宜上「中級受験者数・プラチナ認定者数/率」を記載しています。





よく見ると、徐々に合格率が下がっているようにも見えます。

出題形式はまったく変わらず、毎回「骨のある」設問がされていながら、それでもなお、合格率が下がっているというのは、採点方法が少し厳しくなっているのかもしれません。
あるいは、ぱっと設問(第3問)を見て、「ドキっ!!」とするような出題が増えてきたからかもしれません。

そうはいっても、45%以上の方は合格しているというのもまた事実です。




●参考:公式テキスト・問題集

ついでなので、最新のテキスト・過去問題集を載せておきます。
公式テキストは、世界遺産検定を受験する・しないにかかわらず、世界遺産を楽しむのには最適です。


はじめて学ぶ世界遺産100 世界遺産検定3級公式テキスト

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くわしく学ぶ世界遺産300 世界遺産検定2級公式テキスト

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すべてがわかる 世界遺産大事典(上) 世界遺産検定公式テキスト

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すべてがわかる 世界遺産大事典(下) 世界遺産検定公式テキスト

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世界遺産検定公式過去問題集3・4級(2015年度版)

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世界遺産検定公式過去問題集1・2級(2015年度版)

Amazon











というわけで、合格率の分析をしてみましたが、

こういう話はあまり意味がなくて、


人と比べるよりは、認定点を超えられるような準備をしておけば、心配はないと考えます。

出題傾向・難易度は、大きく変わっていませんから、ぜひ頑張ってください!!


※詳しい勉強法などは、以下の記事からどうぞ。



●関連記事
 世界遺産検定の勉強法まとめ
 世界遺産検定。1級受ける?受けない?
 世界遺産検定の合格体験記

●データ出所
 世界遺産検定Website
 世界遺産検定Website(アーカイブ)




皆さんの合格体験談を募集中です!!
こちらからメッセージをお送りください♪





長崎の教会群とキリスト教関連遺産は世界遺産になれるのか?

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来年(2016年)の世界遺産登録をめざす「長崎の教会群とキリスト教関連遺産」。

着々と登録に向かって準備が進んでいます。

今年の登録をめざす「明治日本の産業革命遺産 九州・山口と関連地域」と同様に、新しい世界遺産の誕生が楽しみですね。



「長崎の教会群」ユネスコに推薦書提出 世界遺産登録目指し日本側の手続き完了
文化庁は28日、来年の世界文化遺産登録を目指す「長崎の教会群とキリスト教関連遺産」(長崎、熊本県)の正式な推薦書を、パリの国連教育科学文化機関(ユネスコ)本部に提出したことを明らかにした。
提出は現地時間の22日。これで政府による推薦手続きは完了し、今後はユネスコ側の審査を待つことになる。9月にもユネスコ諮問機関の現地調査を受け、来年6月下旬ごろの世界遺産委員会で登録の可否が決まる見通しだ。

産経新聞(2015/01/28)
※世界遺産検定を受験された方はご存じでしょうけど、記事の「ユネスコ側の審査」というのは、正確には「ユネスコ諮問機関の事前調査・世界遺産委員会による審議」です。






■長崎の教会群とキリスト教関連遺産は世界遺産になれるのか?

長崎の教会群とキリスト教関連遺産の概要と、登録の可能性についてご紹介しておきましょう。


●概要

長崎の教会群とキリスト教関連遺産
Churches and Christian Sites in Nagasaki
日本 暫定リスト:2007年 推薦基準:(ⅱ)(ⅲ)(ⅵ)





「長崎の教会群とキリスト教関連遺産」は、16世紀以来の日本におけるキリスト教の受容過程を示す遺産群であり、城跡・集落・教会建築で構成されます。
日本におけるキリスト教は、16世紀における伝来と普及、17世紀以降の鎖国・禁教下における密かな継承、19世紀半ばの発展という3つの段階を辿り、この4世紀に渡る受容の過程で、日本文化の影響を受けた独特のキリスト教信仰や教会建築における日本とヨーロッパの建築技術の融合が起こりました。
キリスト教受容の400年以上の経過を示す資産として他に例がなく、また、16世紀以来の東西交流と、この交流の中で生まれた文化的伝統を物語る顕著な物証となるものです。
WHC Tentative List
文化庁 プレスリリース(2014/09/17)




●構成資産

この世界遺産候補は、
 ①キリスト教伝来・普及の証となる「城跡」
 ②禁教下での信仰の場となった「集落」
 ③幕末・明治以降の「教会建築」 の3つのくくりで、合計14の資産で構成されています。



No区分構成資産
1教会建築大浦天主堂と関連施設
2教会建築出津教会堂と関連遺跡
3教会建築大野教会堂
4城跡日野江城跡
5城跡原城跡
6教会建築黒島天主堂
7教会建築田平天主堂
8集落平戸の聖地と集落(春日集落と安満岳)
9集落平戸の聖地と集落(中江ノ島)
10集落野崎島の野首・舟森集落跡
11教会建築頭ヶ島天主堂
12教会建築旧五輪教会堂
13教会建築江上天主堂
14集落天草の﨑津集落

※各構成資産の詳細は上記のリンクからご覧ください。(長崎県Website)


地図の通り、結構広範囲に広がっていますね。


地図はこちら(Google Map)

有名な「大浦天主堂」などの「教会建築だけではない!」というのが、この世界遺産候補を語る上で、重要なところですね。




●推薦基準

そして、日本政府が推薦書に記載している推薦基準、つまり「世界遺産の登録基準への適合」は以下の3つ。

(ⅱ) ある期間、あるいは世界のある文化圏において、建築物、技術、記念碑、都市計画、景観設計の発展における人類の価値の重要な交流を示していること。
 →4世紀にわたるキリスト教を通じた日本と西欧の価値観の交流があった。
 ・キリスト教を介し、日本とヨーロッパとの交流が行われた。
 ・19世紀には日本とヨーロッパの建築技術が融合した教会堂が建設された。

(ⅲ) 現存する、あるいはすでに消滅した文化的伝統や文明に関する独特な、あるいは稀な証拠を示していること。
 →キリスト教伝来から始まった文化的伝統の物証がある。
 ・日本の伝統、慣習、環境の影響を受けた信仰組織や信仰の場が形成された。
 ・禁教下には、密かに信仰を継承するための独特の信仰形態(潜伏キリシタン)が生み出された。

(ⅵ) 顕著で普遍的な価値をもつ出来事、生きた伝統、思想、信仰、芸術的作品、あるいは文学的作品と直接または明白な関連があること(ただし、この基準は他の基準とあわせて用いられることが望ましい)。
 →大航海時代を背景としたキリスト教の極東への到達という出来事との関連がある。
 ・キリスト教の極東への到達と、その後の普及、禁教、復活という顕著な出来事に関連する。






●今後のスケジュール

今後は以下のスケジュールで、登録に向けた事前調査・審議が進められます。

 2015年 2月  ユネスコ世界遺産センターへ推薦書の提出(済)
 2015年 9月頃 ICOMOSによる現地調査
 2016年 5月頃 ICOMOSによる勧告
 2016年 6月  第40回世界遺産委員会による審議




●推しポイント

ということで・・・

この世界遺産候補は、とにかく『わかりやすい』ところがいいですね。
キリスト教伝来・島原の乱・隠れキリシタンといった日本のキリスト教の歴史は、小学生でも知っていますし、それを伝える確証もシンプルに構成されています。
そして、なにより、(登録を決める)世界遺産委員会の構成国代表にも「わかりやすい」です。


※平泉の精神性や、三保の松原が目に見えない形で富士山の信仰とつながっている。といった近年の日本の世界遺産の登録事例と比べると、大航海時代にキリスト教が極東まで伝わって信仰された。というのは、実にわかりやすいです。
※複数の資産で構成される「シリアル・ノミネーション」は、構成資産のつながりが、明確かつ最適である必要があります。

世界遺産登録の可能性は・・・、ずばり、期待できるんじゃないでしょうか!?








■文化の融合・調和が美しい!教会の世界遺産

日本の美しい教会をご紹介したところで、各国にある「その土地の文化と融合した」教会に関連する世界遺産を5つほどご紹介しておきます。


チロエの教会堂群
Churches of Chiloé

チリ 登録年:2000年 登録基準:(ⅱ)(ⅲ)

チリ南部に位置するチロエの教会堂群は16世紀スペイン統治下に建造された木造教会堂の遺構です。イエズス会が布教活動のためチロエ島原産の木材を使用し約150もの教会堂を建造。19世紀にはフランシスコ会もこの地に教会堂を建造しました。ヨーロッパと先住民文化が調和した建築様式が特徴で、チロエ様式とも呼ばれています。
詳細はこちら(WHC)




バグラティ大聖堂とゲラティ修道院
Bagrati Cathedral and Gelati Monastery

グルジア 登録年:1994年 危機遺産(2010年~) 登録基準:(ⅳ)

バグラティ大聖堂とゲラティ修道院は、シルクロードの要衝として栄えたグルジア西部クタイシに位置します。11~12世紀グルジア王国によって建造されたものです。バグラティ大聖堂はグルジア王バグラト3世により築かれ、オスマン帝国により破壊されましたが、外壁に動植物の浮彫が施されているのが特徴です。
詳細はこちら(WHC)




マラムレシュの木造教会群
Wooden Churches of Maramureş

ルーマニア 登録年:1999年 登録基準:(ⅳ)



ルーマニア北西部に位置するマラムレシュの木造教会群は、教会本体に石や鉄を一切使わず木材(ナラやマツの一枚板)のみでつくられたゴシック様式の教会です。長く四角い屋根が特徴で、内部の柱などには太陽や鋼の彫刻が施されています。
詳細はこちら(WHC)




フィリピンのバロック様式の聖堂群
Baroque Churches of the Philippines

フィリピン 登録年:1993年 登録基準:(ⅱ)(ⅳ)

フィリピンのバロック様式の聖堂群は、フィリピン各地に残るスペイン植民地時代に建造された聖堂群です。スペイン本国の聖堂をモデルに、台風や地震への対策・あるいは西洋列強の攻撃を想定し、堅牢な石造の聖堂となりました。「地震のバロック」とも呼ばれます。
詳細はこちら(WHC)




ラリベラの岩の聖堂群
Rock-Hewn Churches, Lalibela

エチオピア 登録年:1978年 登録基準:(ⅰ)(ⅱ)(ⅲ)



エチオピア高原北東部に位置するラリベラの聖堂群は、12~13世紀ザグウェ朝7代国王ラリベラの命により建造された、11の岩窟キリスト教聖堂群です。岩を掘って建造されたこの聖堂群は、アクスム王朝の建築様式や古代ローマ・古代ギリシア・ビザンツ帝国の建築様式などの影響を受けている点が特徴です。
詳細はこちら(WHC)



画像で見ただけでも、それぞれの「独自性」と「現地の文化との融合・調和」がわかりますね。






ちなみに、長崎県(周辺)の教会めぐり(巡礼)については、以下のWebsiteが充実しています。


長崎観光ポータルサイト ながさき旅ネット


教会を訪問する際のマナーをはじめ、巡礼ルートなど、わかりやすく・丁寧に記述されています。

こうした地元の方たちの思いが、いい結果を結ぶことを期待しましょう!!


※国立西洋美術館(「ル・コルビュジェの建築作品」)も2016年の登録をめざしていますが、それはまた別途。






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世界遺産がない国の一覧:世界遺産非保有国(2014年)

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世界遺産の登録件数が1,000件を超えた現在も、世界遺産を保有していない国はまだあります。

一覧形式でご紹介しておきましょう。





■世界遺産がない国の一覧:世界遺産非保有国(2014年)

世界遺産がまだない国は、現時点で、こちらの36ヶ国です。

No国・地域(英語)ISO国・地域国連条約URL
1AngolaaoアンゴラUNESCO
2Antigua and Barbudaagアンティグア・バーブーダUNESCO
3BahamasbsバハマUNESCO
4BhutanbtブータンUNESCO
5BurundibnブルンジUNESCO
6Brunei DarussalambiブルネイUNESCO
7ComoroskmコモロUNESCO
8Cook Islandsckクック諸島UNESCO
9DjiboutidjジブチUNESCO
10Equatorial Guineagq赤道ギニアUNESCO
11EritreaerエリトリアUNESCO
12GrenadagdグレナダUNESCO
13Guinea-BissaugwギニアビサウUNESCO
14GuyanagyガイアナUNESCO
15JamaicajmジャマイカUNESCO
16KuwaitkwクウェートUNESCO
17LiberialrリベリアUNESCO
18Liechtensteinliリヒテンシュタイン-
19MaldivesmvモルディブUNESCO
20Micronesia (Federated States of)fmミクロネシア連邦UNESCO
21MonacomcモナコUNESCO
22Naurunrナウル-
23NiuenuニウエUNESCO
24RwandarwルワンダUNESCO
25Saint Vincent and the Grenadinesvcセントビンセント・グレナディーンUNESCO
26SamoawsサモアUNESCO
27Sao Tome and Principestサントメ・プリンシペUNESCO
28Sierra LeoneslシエラレオネUNESCO
29Somaliasoソマリア-
30South Sudanss南スーダン-
31SingaporesgシンガポールUNESCO
32SwazilandszスワジランドUNESCO
33Timor-Lestetl東ティモール-
34TongatoトンガUNESCO
35Trinidad and Tobagottトリニダード・トバゴUNESCO
36Tuvalutvツバル-

●:加盟国/締約国
○:非加盟国/非締約国




●国の数をどう数えるか?

そもそも国の数をどう数えるか?という点についてですが、「国連加盟国の数+α」というのが一般的ですね。



この図の通り、国連加盟国は、現在193ヶ国あり、一方世界遺産条約の締約国は191ヶ国。

①国連に加盟しているが、世界遺産条約を締約していない(6ヶ国)
 リヒテンシュタイン・ナウル・ソマリア・南スーダン・東ティモール・ツバル

②国連に加盟していないけど、世界遺産条約は締約している(4か国)
 クック諸島・バチカン市国・ニウエ・パレスチナ
 ※ローマ教皇庁(バチカン市国)・パレスチナはオブザーバーとして国連に参加。
 ※クック諸島・ニウエは、外交・防衛についてはニュージーランドに信託。

③国連に加盟しておらず、世界遺産条約も締約していない
 台湾など

ということで、地球上にある国は、ほとんどすべて「世界遺産条約を締結している」ということがわかるかと。(←これすごいことですよ!)




●世界遺産がない国はどういう国か?

それでは、世界遺産がない国というのはどういう国か?というと、大きく以下の2つに分かれます。

①世界遺産条約を締約していない。
 世界遺産を登録するには、まず世界遺産条約を締約する必要があります。
 残り6ヶ国が、ぜひ世界遺産条約の仲間入りしてくれるといいですね。

②世界遺産条約を締約しているが、世界遺産がまだ登録されていない。
 上記の表と、以下の地図を見比べていただければ、世界遺産がない国が多い「エリア」がわかります。
 アフリカ大陸の国々・太平洋の島国・カリブ海の島国などです。


大きい地図はこちら(Google Map)


ざっくり言えば、小さい国がほとんどです。
シンガポール・ジャマイカあたりは意外かもしれませんね。




●最近世界遺産を保有するようになった国

ちなみに、最近になって、世界遺産保有国になった、という国々がこちら。

初登録年国名件名区分勧告
2010年タジキスタンProto-urban Site of SarazmMD
2010年キリバスPhoenix Islands Protected AreaND *1
2010年マーシャル諸島Bikini Atoll Nuclear Test SiteCR
2011年アラブ首長国連邦Cultural Sites of Al Ain (Hafit, Hili, Bidaa Bint Saud and Oases Areas)CD
2011年バルバドスHistoric Bridgetown and its GarrisonCD
2012年パレスチナBirthplace of Jesus: Church of the Nativity and the Pilgrimage Route, BethlehemCN *2
2012年コンゴ共和国Sangha TrinationalN *3D
2012年チャドLAKES OF OUNIANGANI
2012年パラオRock Islands Southern LagoonMR/I *4
2013年カタールAl Zubarah Archaeological SiteCI
2013年レソトMaloti-Drakensberg ParkMD *5
2013年フィジーLevuka Historical Port TownCI
2014年ミャンマーPyu Ancient CitiesCD

※「区分」は世界遺産の登録基準による区分です。C:文化遺産、N:自然遺産、M:複合遺産。
※「勧告」はUNESCO諮問機関による事前の評価結果です。I:記載(登録)、R:情報照会、D:記載延期、N:不記載。
*1 IUCNによる勧告。ICCOMOSも文化遺産としての基準を満たす可能性があることを勧告。
*2 緊急登録の基準に該当しないことを勧告。(緊急登録は、危機に瀕している文化遺産・自然遺産のうち、世界遺産の登録基準を疑いなく満たしているものを、世界遺産に登録すると同時に危機遺産の指定をすることで、国際社会に保全の重要性をアピールするという制度です)
*3 カメルーン・中央アフリカ・コンゴ共和国の三カ国による推薦。
*4 ICOMOS:R、IUCN:Iの勧告でした。
*5 南アフリカの世界遺産の拡大登録に関する勧告。


ここで注目すべきは、諮問機関の勧告から、「ジャンプアップ」して、登録が決まった物件がいくつもあることです。

諮問機関は「記載延期」が望ましいとしたのに対し、世界遺産委員会では、記載(登録)の決議がされたというのが、上記の表に結構ありますよね。


世界遺産がない国が、保有国になるのはいいことですが、「急ぎ過ぎている」という批判があるのもまた事実。



▲シンガポールの世界遺産候補「シンガポール植物園」。詳細はこちら



今年6月の世界遺産委員会では、また新たな「世界遺産保有国」が誕生するかもしれませんね!!




●関連記事
 2014年に誕生した26件の世界遺産
 世界遺産のこれからについて
 世界遺産登録の瞬間(動画)





近代建築の三大巨匠:ライト・ミース・コルビュジェの世界遺産

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近代建築の三大巨匠とよばれる3人の建築家の作品が、来年、世界遺産としてそろうかもしれません。

それぞれの世界遺産・世界遺産候補について、ご紹介しましょう。





▲マリン郡シビック・センター(1963年,フランク・ロイド・ライト)






■近代建築三大巨匠の世界遺産・世界遺産候補

●近代建築の三大巨匠って誰?

まず、近代建築の三大巨匠といえばこの3人。ライト、ミース、コルビュジェです。(生年順)

フランク・ロイド・ライト(Frank Lloyd Wright、米、1867-1959)
ルートヴィヒ・ミース・ファン・デル・ローエ(Ludwig Mies van der Rohe、独、1886-1969)
ル・コルビュジエ(Le Corbusier、瑞/仏、1887-1985)


▲ライト(左)・ミース(中)・コルビュジェ(右)


三大巨匠の建築理論やその生涯については割愛させてもらうとして、同時代を生きたこの3人。それぞれ面識があったのでしょうか?

ミースとコルビュジェは1927年ドイツの住宅展示会(Weisenhofsiedlung)で、ミースとライトは1937年アメリカのイリノイ工科大学にて出会っていたようですが、ライトとコルビュジェは面識がなかったようです。

ちなみに、ニューヨークには3人が携わった建築物がそろっています。(当時「新しいこと」をやる場所として、やっぱりニューヨークが最適だったのでしょうか?それとも偶然?)


▲グッゲンハイム美術館(左,ライト)・シーグラムビル(中,ミース)・国連ビル(右・コルビュジェが原案)




●ミース・ファン・デル・ローエ

さて、三大巨匠のうち、最初に世界遺産に登録されているのが、ミースのこちらの作品。


ブルノのトゥーゲントハット邸
Tugendhat Villa in Brno

チェコ 登録年:2001年 登録基準:(ⅱ)(ⅳ)



チェコ中部南モラビア州の州都ブルノにあるトゥーゲントハット邸は、ドイツの建築家ミース・ファン・デル・ローエが設計したもので、1920年代、ヨーロッパで発展した建築近代化運動を今に伝える、国際様式の建築物です。特に空間や美的概念の「革新性」が高く評価されており、近代的な産業製品がもたらす可能性を巧みに利用して、生活における新たなニーズに応えることを目的とした個人住宅でもあります。
UNESCO WHC


構成資産

No名称名称(仏語)所在地
1トゥーゲントハット邸Vila Tugendhatチェコ

大きい地図はこちら




●フランク・ロイド・ライト

来年世界遺産になるかもしれないのが、三大巨匠のうち一番先輩にあたるライトの作品群。
登録されれば、アメリカの世界遺産として「初の近代建築」です。



フランク・ロイド・ライトの建築物群
Frank Lloyd Wright Buildings

アメリカ 暫定リスト:2008年 推薦基準:(ⅰ)(ⅱ)



フランク・ロイド・ライトの400を超える作品のうちアメリカにある10の建築物で構成されています。60年にわたる創作活動において建築物から家具に至るまで「有機的建築」を追求し、近代建築に多大な影響を与えました。日本にも、帝国ホテルライト館(現在は明治村に一部移築)をはじめとした彼の作品が残っており、浮世絵やマヤ文明からも影響を受けたとされています。
UNESCO WHC Tentative List
US Department of State(2015/01/30)


構成資産
No名称名称(英語)所在地
1ユニティ・テンプルUnity TempleOak Park, Illinois
2ロビー・ハウスFrederick C. Robie HouseChicago, Illinois
3ホリホック・ハウスHollyhock HouseLos Angeles, California
4タリエシンTaliesinSpring Green, Wisconsin
5落水荘FallingwaterMill Run, Pennsylvania
6ジェイコブ・ハウスHerbert and Katherine Jacobs HouseMadison, Wisconsin
7タリエシン・ウェストTaliesin WestScottsdale, Arizona
8プライス・タワーPrice TowerBartlesville, Oklahoma
9ソロモン・R・グッゲンハイム美術館Solomon R. Guggenheim MuseumNew York, New York
10マリン郡シビック・センターMarin County Civic CenterSan Rafael, California

大きい地図はこちら




●ル・コルビュジェ

2009年・2011年の世界遺産委員会では登録に至らず、来年の登録に向けて三度目のチャレンジしているのが、コルビュジェの建築作品。日本の国立西洋美術館を含めた7か国の推薦です。


ル・コルビュジエの建築作品:近代建築運動への顕著な貢献
フランス・スイス・ドイツ・ベルギー・日本・アルゼンチン・インド 暫定リスト:2006年 推薦基準:(ⅱ)(ⅵ)



ル・コルビュジエは、パリを拠点に活躍した建築家・都市計画家で、建築・都市計画のみならず絵画、彫刻、家具などの制作にも取り組み、小住宅から国連ビルの原案まで幅広い創作活動を展開しました。合理的、機能的で明晰なデザイン原理を絵画、建築、都市等において追求し、20世紀の建築・都市計画に大きな影響を与えました。世界各地に所在する彼の建築作品のうち、7カ国(フランス・スイス・ドイツ・ベルギー・日本・アルゼンチン・インド)17の資産が対象になっています。ル・コルビュジエは、新しい建築の概念を広め、20世紀における世界中の建築に大きな影響を与えるとともに、彼の活動は「近代建築運動」という顕著な普遍的価値を有する思想と関連しています。
UNESCO WHC Tentative List


構成資産
No名称名称(仏語)所在地
1ラ・ロッシュ=ジャンヌレ邸Maison La Roche-Jeanneretフランス
2ペサックの集合住宅Cité Frugès, Pessacフランス
3サヴォア邸Villa Savoyeフランス
4ナンジュセール・エ・コリ通りのアパートImmeuble locatif à la Porte Molitor, Boulogne-Billancourtフランス
5マルセイユのユニテ・ダビタシオンUnité d'habitation, Marseilleフランス
6サン・ディエの工場Manufacture à Saint-Diéフランス
7ロンシャンの礼拝堂Chapelle Notre-Dame-du-Haut, Ronchampフランス
8小さな休暇小屋(カップ・マルタン)Cabanon de Le Corbusier, Roquebrune-Cap-Martinフランス
9ラ・トゥーレットの修道院Couvent Sainte-Marie-de-la-Touretteフランス
10フィルミニの建築物群Centre de recréation du corps et de l'esprit de Firminy-Vert, Firminyフランス
11レマン湖畔の小さな家Petite villa au bord du lac Lémanスイス
12クラルテ集合住宅Immeuble Clartéスイス
13ヴァイセンホフ=シードルングの住宅Maisons de la Weissenhof-Siedlungドイツ
14ギエット邸Maison Guietteベルギー
15クルチェット博士邸Maison du Docteur Curutchetアルゼンチン
16国立西洋美術館Musée National des Beaux-Arts de l'Occident日本
17チャンディガールのキャピトル・コンプレックスCapitol Complex Chandigarhインド



大きい地図はこちら


構成資産変更の経緯
色々あって(←手抜き)最新の推薦では17の資産が対象とされています。(インドが加わっています)
国名資産名2009年2011年2016年
フランスラ・ロッシュ=ジャンヌレ邸
フランスペサックの集合住宅
フランスサヴォア邸
フランスナンジュセール・エ・コリ通りのアパート
フランスマルセイユのユニテ・ダビタシオン
フランスサン・ディエの工場
フランスロンシャンの礼拝堂
フランス小さな休暇小屋(カップ・マルタン)
フランスラ・トゥーレットの修道院
フランスフィルミニの建築物群
フランススイス学生会館-
フランスジャウル邸-
フランスクック邸--
フランス救世軍難民院--
スイスレマン湖畔の小さな家
スイスクラルテ集合住宅
スイスジャンヌレ=ペレ邸-
スイスシュウォブ邸--
ドイツヴァイセンホフ=シードルングの住宅
ベルギーギエット邸
アルゼンチンクルチェット博士邸
日本国立西洋美術館
インドチャンディガールのキャピトル・コンプレックス--
-合計221917
※●:構成資産
※登録活動・構成資産の変遷の詳細はこちら(文化庁、2014/09/11)




●バウハウス

また、ミースが教鞭をとっていた近代建築学校であるドイツの「バウハウス」は、すでに世界遺産になっています。
三大巨匠に「ヴァルター・グロピウス(1883-1969)」を加え、近代建築の「四大巨匠」ともいわれますが、同じくグロピウスもこの学校の建築物の設計を行いました。(才能ある人たちって、いつの時代も自然と集まってしまうんですかね?)


ヴァイマールとデッサウのバウハウスとその関連遺産群
Bauhaus and its Sites in Weimar and Dessau

ドイツ 登録年:1996年 登録基準:(ⅱ)(ⅳ)(ⅵ)

バウハウスは、1919~1933年の間に建築・美学上の概念とその作品に革命を起こした建築学校です。グロピウス、マイヤー、カンディンスキーなど、この学校の教授陣の設計による建築物群は、20世紀建築の開幕を告げるものとなりました。
UNESCO WHC




●ヴァルター・グロピウスに関連する世界遺産

ついでなので、グロピウスの作品に関連する世界遺産を、もう2つご紹介しておきます。


ベルリンのモダニズム集合住宅群
Berlin Modernism Housing Estates

ドイツ 登録年:2008年 登録基準:(ⅱ)(ⅳ)

ベルリンに点在する、ワイマール共和国時代(1910~1933年)に建設された6つの集合住宅で構成されています。いずれも、低所得者層の住宅と生活環境を改善することを目的とした、革新的な住宅供給政策によるものです。ブルーノ・タウト、マルティン・ヴァグナー、ヴァルター・グロピウスらの建築家がかかわりました。当時のベルリンがいかに社会的、政治的、文化的に斬新だったかを示す住宅であり、世界中の公共住宅の発展に多大な影響を及ぼしました。
UNESCO WHC




ファグス靴型工場
Fagus Factory in Alfeld

ドイツ 登録年:2011年 登録基準:(ⅱ)(ⅳ)

ヴァルター・グロピウスの設計による、1910年前後に着工された10棟からなる建築群で、近代建築と工業デザインの発展を今に伝えています。靴工場として長い間使用されており、製造や保管、発送、流通など、製造工程のすべての機能を備えています。巨大なガラスを全面に使用した斬新さと機能美は、バウハウスの先駆けとして、欧州・北米における、建築の発展過程を物語るものです。
UNESCO WHC





▲三大巨匠設計の椅子。ライト(左, "Robie 1")・ミース(中, "Barcelona Chair")・コルビュジェ(右, "LC2")




というわけで、この記事の冒頭で、「ライトとコルビュジェは『面識がなかった』」という話をしましたが、

偶然にも? 2016年の世界遺産委員会で、「初対面」することになることが決まりました!


厳正な審議を経て、両巨匠の作品が、めでたく世界遺産になってくれるといいですね!





●関連記事
 国境を超えた世界遺産:トランス・バウンダリー・サイト
 国立西洋美術館とともに2016年の世界遺産登録をめざす長崎の話
 世界遺産登録の裏側がわかる書籍など





日本の自然遺産はあといくつ増えるのか?

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日本の自然遺産はあといくつ増えるのか?

あまり報道されていないことですが、日本の自然遺産の候補は「残り1件」しかない状態になりました。

今年1月に環境省が発表した報告書に、ひっそりと記載がありましたので、ご紹介します。





■日本の自然遺産候補があと1つしかない




●世界遺産登録までのステップ

・・・と、その前に、まずは日本の世界遺産登録までのステップをおさらいしておきましょう。

①国内候補
日本の場合、各地方自治体からの「立候補」をもとに候補地の検討が始まります。(建前ですが)

②暫定リスト
候補地の中で「ここを世界遺産に推薦するべき」という判断は、文化遺産なら文化庁、自然遺産なら環境省・林野庁が行い、関係省庁の了解を得て、UNESCOの「世界遺産暫定リスト」への記載が決まります。ここまでが国内予選。

③世界遺産登録
暫定リストに記載されたものから、実際に、いつ世界遺産委員会への正式推薦をするか?についても、同様の関係省庁による意思決定プロセスをふむことになります。正式推薦するにあたっては、推薦書の骨子が固まっていて「勝ち目がある」と判断される必要があります。
そしてようやく推薦書をUNESCO世界遺産センターに提出し、UNECO諮問機関の現地調査・事前勧告を経て、世界遺産委員会で登録の審議が行われることになります。







●日本の自然遺産の選考経緯

さて、これまでの日本の自然遺産の「国内予選」の状況についてです。ざっくり言えばこんな感じです。

1993年:日本初の世界遺産が誕生
日本が世界遺産条約を締約したのは1992年。1993年に日本初の世界遺産として、法隆寺地域の仏教建造物、姫路城、屋久島、白神山地が登録されました。

2003年~:次の自然遺産の候補地調査を開始
2003年、屋久島・白神山地につぐ自然遺産の候補地の検討が始まります。(「世界自然遺産候補地に関する検討会」)19のエリアについて詳細の検討が行われ、「知床」「小笠原諸島」「奄美・琉球」の3つのエリアがもっとも世界遺産に近いとして、本格的な推薦のステップに入りました。
2005年に知床が、2011年に小笠原諸島が世界遺産に登録されます。




2012年:新たな自然遺産の候補地を検討
小笠原諸島が登録され、さて次は?というタイミングで、「新たな世界自然遺産候補地の考え方に関する懇談会」(環境省・林野庁)がスタート。
上記19の候補エリアのうち残りの16のエリアについて、2013年・2014年にかけて詳細の調査・検討が行われました。
特に2014年の検討では、16のエリアのうち5つのエリアについて、IUCNの専門家による現地調査も行われました。




●2015年に発表された選考結果

そして環境省が出した結論がこちら。

○新たな自然遺産候補地はない。
○白神山地の登録拡大の可能性として「飯豊・朝日連峰」「奥利根・奥只見・奥日光」等のブナ林の検討を継続する。


新しい自然遺産候補は(奄美・琉球を除き)ギブアップ。でも、日本の原生ブナ林が残っているエリアを精査して、白神山地の登録範囲を拡大できる可能性が残っているということです。


※詳細はこちら(平成26年度世界自然遺産候補地詳細調査検討業務報告書)




●日本の世界遺産暫定リスト記載物件

というわけで、現時点の日本の世界遺産暫定リスト記載物件の一覧がこちら。
合計11件。1992年から20年以上「審議待ち」だったり、今年から来年にかけて審議されるものであったり、すでに登録されている平泉は登録範囲拡大(構成資産の追加)をめざしていたりと、事情は色々ですね。ただ、自然遺産はゼロ件で、ここに「奄美・琉球」が追加される予定という状況。

No件名区分暫定リスト備考
1彦根城C1992年
2武家の古都鎌倉C1992年*1
3飛鳥・藤原の宮都とその関連資産群C2007年
4長崎の教会群とキリスト教関連遺産C2007年*2
5国立西洋美術館本館C2007年*2
6北海道・北東北の縄文遺跡群C2009年
7宗像・沖ノ島と関連遺産群C2009年
8明治日本の産業革命遺産 九州・山口と関連地域C2009年*3
9百舌鳥・古市古墳群C2010年
10佐渡金銀山遺跡C2010年
11平泉 - 仏国土(浄土)を表す建築・庭園及び考古学的遺跡群C2012年*4
*1 2013年ICOMOSより「不記載」の勧告があり、2013年の世界遺産委員会の審議を取り下げました。
*2 2016年の世界遺産委員会にて審議予定。
*3 今年の世界遺産委員会にて審議予定。
*4 構成資産の拡大登録に関する推薦。(柳之御所遺跡・達谷窟・白鳥舘遺跡・長者ヶ原廃寺跡・骨寺村荘園遺跡と農村景観)







●奄美・琉球のチャレンジ

ちなみに、自然遺産として一番登録に近い「奄美・琉球」は、なかなか興味深い推薦になるかもしれません。




奄美・琉球は、独自の進化を遂げた固有種が存在することと、絶滅危惧種が多数生息することをウリとしていますが、
こうした貴重な生物の生息地と、人が住んでいる地域が、きわめて近くにあるのが特徴です。

それをどうやって保全していくのか?というのが大きな課題。はっきりいって世界遺産登録に不可欠な「完全性」の観点では非常に厳しい状況にあります。様々な検討がされていてまだ結論は出ていないようですが、こんな推薦をしてはどうか?という議論がされています。

・奄美・琉球は過去に人為的影響を受けた自然であり、土地所有の形態も複雑で、地域住民の生活や生産とも密接不可分な関係にあるにも関わらず、生態系及び生物多様性のクライテリアにおいて顕著な普遍的価値を有する世界に類をみない世界自然遺産推薦地である。
・このような地域を世界自然遺産に推薦・登録し、その価値を将来世代に引き継ぐためには、関係行政機関だけではなく、地域住民や地元関係団体等との協働が不可欠である。
・奄美・琉球を地域社会の参加と協働による世界自然遺産の新たなモデルとして世界に発信していけるよう、適切な管理の実現を目指していく。



世界遺産(自然遺産)といえば、「手つかずの自然環境」をイメージしますが、まさに「逆転の発想」ですね。

ちなみに、この奄美・琉球は、2013年に一度暫定リストへの申請書を提出しているのですが、UNESCO世界遺産センターから「具体的な地域とその位置に関わる詳細な情報を提供せよ」との(ごもっともな)指摘を受け、環境省の「奄美・琉球世界自然遺産候補地科学委員会」にて議論が行われてきました。
奄美大島、徳之島、沖縄島北部、西表島の4地域が選定され、今後、推薦書の内容を見極めながら、世界遺産センターへの回答と正式な暫定リストへの申請を行うのではないかと。


大きい地図はこちら
※詳細はこちら(環境省 奄美・琉球世界自然遺産候補地科学委員会)




●奄美・琉球に関する参考情報

ちなみに、奄美・琉球に関してはこんな情報があります。

奄美、陸自と希少種は共存できるか 世界遺産めざす島

陸上自衛隊の部隊配備が予定される鹿児島県・奄美大島は、希少な動植物の宝庫として知られる。配備予定地周辺の森を歩くと、国の特別天然記念物アマミノクロウサギなど貴重な生き物を多く見ることができた。世界自然遺産登録をめざす島は自衛隊と希少種の共存をめざすが、配備に伴う開発の影響を心配する声もある。
続きはこちら(朝日新聞,2015/03/02)

奄美・琉球:希少動物の交通事故多発 世界遺産へ対策強化
2016年に国内5番目の世界自然遺産登録を目指す「奄美・琉球」地域で、希少動物の交通事故対策が課題になっている。事故が原因で絶滅の可能性が高まっているイリオモテヤマネコのような例もあり、関係者は「このままでは登録の障害になりかねない」と、事故防止強化に乗り出した。
続きはこちら(毎日新聞,2014/04/19)




●自然遺産の先進国に!

こうした経緯をふまえ、日本の自然遺産は「新しいステージ」に入ったのかもしれません。

あくまで自然遺産の話ですが、登録件数を拡大していくという段階はもういったん終わり、これからは登録された世界遺産を保全していく。

そして、自然遺産保全に関する科学・技術・ノウハウを「輸出」していくといった、「自然遺産の先進国」のポジションになっていくのではないかと。

自然遺産の登録をめざしていたが断念した地域については、また「別の形」で、自然環境保全と地域開発の両立を模索していく必要がでてきました。
盛り上がった地元の方たちの自然保護に対する想いは、たとえばユネスコの「世界ジオパークの指定」といった、世界遺産とはまた別のタイトルをもらうことが、ひとつの「出口」になるのかもしれません。
※詳しい話は、こちらの記事を。UNESCO世界ジオパークとは何か?





次世代に引き継ぐべき、人類の宝物は「世界遺産だけじゃない」わけで、

自然遺産保全の先進国としての日本の貢献が、期待されているはずです。


※先進国ですよね?もちろん??




●関連記事
 日本の自然遺産はどうなる?
 日本は世界何位?世界遺産登録件数ランキング
 動画:記念すべき1,000件目の世界遺産は、アフリカの自然遺産でした。





危機遺産とは何か?の本質について

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世界遺産の基礎知識ネタ。今回は危機遺産とは何か?というお話です。

よく聞くコトバだけど、実は奥が深いのが危機遺産。

どういうときに「危機遺産」の指定を受けるのでしょうか?






■危機遺産とは何か?

危機遺産の定義や指定されるまでのステップは細かく規定されています。
世界遺産条約締約国が決めた「世界遺産条約履行のための作業指針」(Operational Guidelines for the Implementation of the World Heritage Convention)というガイドラインに記載があり、該当部分を要約してご紹介します。
※原文はこちら


▲グレートバリアリーフ。そろそろ危機遺産の指定を受けるかもしれません。




●危機遺産とは何か?

危機遺産の定義をざっくりいうとこういうことです。

危機遺産リストとは、世界遺産として登録された価値(特徴)そのものが脅威にさらされている状態であることを、国際社会に伝え、アクションを促すために設定されたリストのこと。
※危機遺産ではなく「危機遺産リスト」というのが公式用語。また、世界遺産は(世界遺産条約に基づき)世界遺産リストとして一覧表に掲載されたものと定義されます。厳密には、世界遺産の「登録」ではなく、世界遺産リストへの「記載」といいます。

危機遺産は決して「ペナルティー」ではありません。
本来の趣旨は人類共通の遺産を保全するための「注意喚起」なのですが、その国の政府にとっては「バツをつけられた」ような印象を与えているのも確かです。


その理由のひとつは「危機遺産(World Heritage in Danger)」という「名称がよくないから」という意見もあります。
無形文化遺産条約では、「緊急に保護する必要がある無形文化遺産」(Intangible Cultural Heritage in Need of Urgent Safeguarding)というリストがあります。
意味としては同じですが、「呼び方」って、やっぱり大事ですよね。

ついでにいえば「世界遺産」という言葉も、すごくいい呼び方だと考えます。
これがもし、「ユネスコ指定重要文化財」とかだったら、現在のような影響力はなかったのではと。危機遺産も「緊急に財政支援が必要な世界遺産」という呼び方にしたら、登録が殺到するかもしれません。(逆効果)




●危機遺産の条件

さて、危機遺産に指定するにあたっての条件がこちら。

・世界遺産であること
・重大かつ明確な危険にさらされていること
・保全にあたって大規模な作業が必要な状態であること
・保全に対する援助が要請されていること(当該国からの要請だけでなく世界遺産委員会メンバー・事務局を含む)




●危機遺産の登録基準

危機遺産の条件にある「重大かつ明確な危険」というのは何か?というと、2つに分かれます。
・確実な危険(Ascertained Danger)
・潜在的な危険(Potential Danger)

文化遺産の場合・自然遺産の場合、それぞれの「例」が定義されています。

文化遺産

確実な危険
(ⅰ)材料の重大な劣化。
(ⅱ)構造及び/又は装飾の重大な劣化。
(ⅲ)建築上又は都市計画上の一貫性にの重大な劣化。
(ⅳ)都市空間又は田園空間の重大な劣化、若しくは自然環境の重大な劣化。
(ⅴ)歴史的真正性の重大な消失。
(ⅵ)文化的意義の重大な消失。
潜在的な危険
(ⅰ)保護の程度を弱くするような資産の法的位置づけの変更。
(ⅱ)保全に関する政策の欠如 。
(ⅲ)地域計画事業による脅威。
(ⅳ)都市計画による影響 。
(ⅴ)武力紛争の勃発又はおそれ。
(ⅵ)地質学的要因、気候要因、その他の環境要因による脅威。

自然遺産
確実な危険
(ⅰ)病気など自然的要因又は密猟など人為的要因による、資産が法的保護下に置かれる根拠となった絶滅危惧種その他の顕著な普遍的価値を有する生物種の個体数の重大な減少。
(ⅱ)人間の移住、資産の重要部分を浸水させる貯水池の建設、工業・農業開発(農薬及び化学肥料の使用、大規模公共事業、採掘、汚染、伐採、薪の採取など)などによる、資産の自然美又は科学的価値の重大な低下。
(ⅲ)資産の完全性を脅かす、資産境界又は上流域への人間活動の侵食。
潜在的な危険
(ⅰ)関係地域の法的保護状況の変更。
(ⅱ)資産の範囲内又は資産を脅かす影響を持つような場所に計画された移住計画又は開発計画。
(ⅲ)武力紛争の勃発又はおそれ。
(ⅳ)管理計画又は管理体制の欠如、若しくは不備、又は、不十分な執行。
(ⅴ)地質学的要因、気候要因、その他の環境要因による脅威。

※2013年に改版された箇所を青字で記載しています。
※出所:Operational Guidelines for the Implementation of the World Heritage Convention (2013/07) para.179,180

なお、いくつか「ただし書き」があります。
・危険の原因が人間の関与によって改善可能なものである必要がある。
・影響度合いをケースバイケースで分析するべき。
・武力紛争の恐れなど、影響評価が困難な場合もあることを考慮すべき。
・人口増加など「差し迫った」脅威でないものもあることを考慮すべき。
・予見できない原因があることも考慮すべき。

こうした規定があることからも、危機遺産は「じっくり議論する」というスタンスであることがわかりますね。




●危機遺産の登録手順

こうした危険に該当する世界遺産があった場合、以下のステップで危機遺産に指定されます。

①解除条件・改善措置計画
世界遺産委員会において当該国と協議しつつ「危機遺産の解除条件」と「改善措置計画」を策定し採択する。(策定段階で諮問機関による調査を世界遺産委員会が指示することも多い)
 
②登録審議
世界遺産委員会において危機遺産の登録審議を行う。出席し・投票したメンバーの3分の2以上の多数決により議決する。

③公示
世界遺産委員会・事務局はこの決議をただちに公示する。

④世界遺産基金
世界遺産委員会は相当分を危機遺産の支援に充当する。

※2012年の改版で、①に「危機遺産の指定解除に望ましい状態を決議する」という事項が追記されました。たしかに「どうなったら危機遺産から除外するか」というゴールが定義されていないと、解除する・しないの議論が混乱しますよね。

当然ながら、こうした重要な決議は、年に1度の世界遺産委員会の場で決定されます。
逆に言うと、突発的な紛争の勃発で世界遺産が危機に瀕したような場合も、「即座に」危機遺産に指定することはできません。(UNESCOはすぐに声明を発表しますが)




●危機遺産の登録件数推移

さて、これまでの危機遺産の登録・除外の件数がこのグラフです。
現在は46件が危機遺産の指定を受けています。それぞれの事情がありますので一概に「増えている/減っている」とは言い切れません。(危機遺産一歩手前の保全状態にある世界遺産もありますし)


※登録抹消された世界遺産は上記件数に含まれません。




●危機遺産のレビュー

危機遺産の指定を受けた世界遺産は、毎年の世界遺産委員会で「改善措置計画」の進捗・保全状態についてレビューが行われます。

レビューの結果、以下の点が決議されます。
・保全のための追加措置が必要かどうか。
・危機的状況を脱した場合、危機遺産の指定を解除するかどうか。
・世界遺産として価値が失われるほど状態が悪化した場合、登録を抹消するかどうか。

各国代表が一同に集まる国際会議において、毎年レビューするというのは大変な作業です。
しかも、危機遺産以外にも保全状態の審議対象となる世界遺産は多数あり、2014年は合計140件以上に及びました。世界遺産の登録件数が増えすぎると、こうした審議がないがしろにされないかという懸念もあります。


▲今年1月に発生した世界遺産「アボメーの王宮」(ベナン)の火災。詳細はこちら(UNESCO,2015/01/14)




●緊急的登録推薦

ちなみに「緊急的登録推薦」という制度もあります。こういう制度です。

・関係諮問機関が世界遺産の登録基準を満たすと判定したもので、
・自然現象や人為的活動により被害をうけている、もしくは、重大かつ明確な危険に直面している場合、
・緊急的登録推薦という形で、通常のスケジュールから除外して、世界遺産に登録し危機遺産の指定をする

要するに、世界遺産に値するような文化遺産・自然遺産が、危機に直面している場合は、通常数年かかる登録の事前準備を割愛して、すぐに世界遺産に登録し、同時に危機遺産の指定をすることで、国際的な支援をアピールしようということです。



▲2003年の大地震の大規模な被害により「緊急的登録推薦」で世界遺産(危機遺産)に指定されたイランの「バムとその文化的景観」。修復活動・管理体制の強化が評価され2013年に危機遺産の指定解除となりました。




●登録抹消

そして、世界遺産には「登録抹消」という制度もあります。
世界遺産委員会は以下の条件を満たしているときに登録抹消を決議することができます。(これまで登録抹消となった事例は2件のみ)

・世界遺産への登録を決定づけた資産の特徴が失われるほど、資産の状態が悪化していた場合。
・世界遺産登録の時点で、既に世界遺産としての本来の特質が人間の行為により脅かされており、かつ、その時点で締約国によりまとめられた必要な改善措置が、予定された期間内に実施されなかった場合。

当然ながら、登録抹消の審議は慎重に行われる必要があるので、以下のような注釈があります。
・当該国との協議が行われるまでは決議をしない
・世界遺産委員会は、入手したすべての情報を審議し決定を行う。

登録抹消はできれば避けたいというのが共通認識ですが、世界遺産リストの「信頼性(Credibility)」を担保するには、この制度は必要ですね。
※参考:世界遺産の「5C」とは何か?




●おまけ:危機遺産クイズ!

それでは最後におまけです。危機遺産に関連するちょっとしたクイズ。

Q1.危機遺産がもっとも多い国は?

Q2.危機遺産に「2回」指定されたことがある世界遺産は?

Q3.危機遺産の指定を解除された世界遺産のうち、2年(最短記録)で指定の解除がされた世界遺産は?

Q4.もっとも長い期間危機遺産の指定を受けている世界遺産は?









正解と解説

Q1
シリア。2013年に国内6件の世界遺産すべてが危機遺産の指定を受けました。
次いで、コンゴ民主共和国は国内5件の世界遺産すべてが危機遺産です。

Q2
ジュジ国立鳥類保護区(セネガル/1984年~1988年、2000年~2006年)
ガランバ国立公園(コンゴ民主共和国/1984年~1992年、1996年~現在)
伝説の都市トンブクトゥ(マリ/1990年~2005年、2012年~現在)
エヴァーグレーズ国立公園(アメリカ/1993年~2007年、2010年~現在)
リオ・プラタノ生物圏保護地域(ホンジュラス/1996年~2007年、2011年~現在)
3回以上危機遺産の指定をうけた世界遺産はまだありません。ジュジ国立公園は2回指定解除をうけました。

Q3
危機遺産登録の2年後に解除されたのがこのふたつの世界遺産。(最短記録)
イグアス国立公園(アルゼンチン/1999年~2001年:2年間)
ケルンの大聖堂(ドイツ/2004年~2006年:2年間)
ちなみに、最長記録は、コトル地方の歴史的建造物と自然(モンテネグロ/1979年~2003年:24年間)。

Q4
現時点でもっとも長い期間危機遺産の指定を受けているのは「エルサレムの旧市街とその城壁群」(ヨルダンによる推薦/1982年~現在:33年経過)。

それぞれの危機遺産の指定理由は、だいたい、皆さんのご想像の通りです。






この記事の前半で、危機遺産の基準となる「重大かつ明確な危険」の「例」をご紹介しました。

人類の貴重な遺産を保全していくのは、こうした様々な困難への「挑戦」でもありますね。


危機遺産は「ペナルティーではない!」ことをぜひ知っておいていただきたいです。





●関連記事
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 2014年に危機遺産になった世界遺産
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第39回世界遺産委員会の開催概要(6/28-7/8)

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今年も世界遺産委員会が近づいてきました。

今回はドイツ西部の都市ボンで開催されます。

開催概要とトピックスをいくつかご紹介しましょう。


この記事の続きはこちら



■第39回世界遺産委員会の開催概要 [6月28日~7月8日]
39th session of the Committee, UNESCO World Heritage

今年の世界遺産委員会の概要はこちらです。


▲ドイツ西部ブリュールの世界遺産「アウグストゥスブルク城」



●開催概要

期間:2015年6月28日~7月8日
場所:ドイツ ボン [World Conference Center Bonn (WCCB)]
詳細はこちら(UNESCO WHC)
会場についてはこちら(WCCB)




●世界遺産委員会ビューロー会議 Bureau Members

議長国:ドイツ(Prof Maria Bohmer)
副議長国:クロアチア・インド・ジャマイカ・カタール・セネガル
ラポラトール:レバノン(Mr Hicham Cheaib)

※議長国×1ヶ国・副議長国×5ヶ国・ラポラトール(書記)×1ヶ国で構成され、任期は1年。世界遺産委員会の事前準備や、議事進行を行います。



●世界遺産委員会 Committee Members

アルジェリア・コロンビア・クロアチア・フィンランド・ドイツ・インド・ジャマイカ・日本・カザフスタン・レバノン・マレーシア・ペルー・フィリピン・ポーランド・ポルトガル・カタール・韓国・セネガル・セルビア・トルコ・ベトナム

※世界遺産条約締約国のなかから21ヶ国で構成されます。日本など9ヶ国の任期は今年までです。




●世界遺産委員会の役割

基本的なことですが、この世界遺産委員会は毎年開催され、世界遺産の運営上最も重要な会議です。主に以下の点が審議・決定されます。

①各国から推薦された候補物件の審議を行い、新たに世界遺産に登録するものを決定します。
②登録されている世界遺産について、危機遺産への指定や指定の解除、世界遺産からの抹消を決定します。
③各国からの支援要請に対して、世界遺産基金の運用方法を審議します。




以上が、今年の世界遺産委員会に関する基本的な情報です。




●世界遺産委員会の選出方法が変更に!

世界遺産委員会のメンバーは、「世界遺産条約締約国会議」にて決定されますが、次回からその「選出方法」が変更になりました。
構成国の「地域的な公平性」を高めることを目的に、ユネスコの定める「地域グル―プごと」の議席数が変更されています。

変更前
各地域グループごとに最低1議席を与える。世界遺産非保有国に1議席を与える。

グループ対象地域議席①議席②2015年
Group ⅠWestern European and North American States1153
Group ⅡEastern European States13
Group ⅢLatin-American and Caribbean States13
Group ⅣAsian and Pacific States18
Group Ⅴ(a)African States12
Group Ⅴ(b)Arab States12
※議席①:各地域グループごとの議席。
※議席②:地域グループに関わらず選出する議席。
※2015年:今回の世界遺産委員会構成国を地域グループでカウント。
※参考記事:世界遺産がない国の一覧


変更後
各地域グループごとの固定議席数を拡大。
グループ対象地域議席①議席②議席③
Group ⅠWestern European and North American States2 5
Group ⅡEastern European States2 
Group ⅢLatin-American and Caribbean States21
Group ⅣAsian and Pacific States3
Group Ⅴ(a)African States4 
Group Ⅴ(b)Arab States2 
※議席①:各地域グループごとの議席。
※議席②:Group ⅢとⅣに、ローテーションで与えられる議席。
※議席③:地域グループに関わらず選出する議席。


上記以外に変更になったのは、以下の点。
・世界遺産非保有国に1議席を割り当てることを廃止し、代わりに「初選出国」に最低1議席与えられるように配慮する。
・任期満了後、再度立候補するまでの期間は、4年から6年に変更。

※詳細はこちら(WHC)
※UNESCOの地域グループの定義はこちら(UNESCO)
※ちなみに世界遺産委員会のメンバーのうち、どの国が議長国を務めるかは世界遺産委員会で決定します。今年の世界遺産委員会の最後に、次回の世界遺産委員会の議長国(=開催国&都市)と副議長国・ラポラトールが決定されます。


世界遺産に関する重要な意思決定をするにあたり、「地域的な公平性」を確保するのは大事なことですね。
ただ一方で、世界遺産委員会の審議は、きわめて「専門性の高い」ものです。


過去の世界遺産委員会で議論されたことや、各国の事例などを熟知し、「科学的に」議論を行えるメンバーが関与できなくなり、もし「政治的な交渉のみで」意思決定がされるようになってしまうとしたら、問題です。

地域的公平性と専門性をどうやって両立させていくか?今後注目すべきところかもしれません。





●日本は世界遺産「知床」の保全状況を報告。

ちなみに、今回の世界遺産委員会では、日本の「知床」の保全状況も議論されます。
世界遺産登録(2005年)以降、世界遺産委員会から17点の宿題をもらっていましたが、現時点の主な論点は以下の2点。


①知床沿岸のトドの生息数
②サケの遡上を妨げる可能性のある河川工作物の影響


ピンとくる方は少ないでしょうから、まずは知床の生態系の話から。

知床の海では、流氷が運んでくる豊富な栄養分が、小魚たちのエサとなるプランクトンを養い、その小魚をエサにするクジラやイルカ、アザラシやトドなどの海獣類・海鳥などの海の生き物を育みます。
また、サケやマスは産卵のために、ふるさとの川をさかのぼります。そこで、ヒグマやオジロワシなど陸にすむ動物の貴重なエサとなります。やがて動物達の死がいや糞は土に返って草木の養分となり、豊かな森を豊かにします。こうした森のミネラルがまた川から海へと流れて、海を豊かにします。
こうした生態系の循環を保全していくのは、簡単なことではありませんよね。

※詳細はこちら(水産庁)


知床の保全活動は、世界的にも高く評価されていますが、それでも課題があります。
たとえばこんな話。



北海道でトドの漁業被害が深刻に 保護策で頭数増加

北海道の日本海側を中心にトドによる漁業被害が深刻化している。追い払いや強化漁網の導入といった対策も奏功せず、2012年度の被害額は過去最高の約16億1200万円に。絶滅への懸念から保護策をとってきた国が、一転して駆除枠を約2倍に拡大する事態となったが、被害を抑えられるかは不透明だ。
日本経済新聞(2014/08/16)

かつて絶滅が危惧されていたトドは、近年個体数が増加しており、人との共存がなかなかうまくいっていない状況にあります。絶滅が危惧されているのは「漁師のほうだ」という人もいるくらい。北海道の漁業がうまくいかないと、私たちの食卓もさみしくなりますから、トドとの共生は他人事ではありませんね。


また、知床にあるいくつかの川には河川工作物(砂防ダムなど)があり、サケの遡上との両立にあたって、これまで様々な努力がされてきました。
この写真は、ダムの横に「サケ専用レーン」が設置されている様子です。緩やかなスロープをつくることでサケが遡上できるようにしています。こういうの日本人が得意な感じしますよねー。

▲左:改造前のダム、右:改造後のダム


今年の世界遺産委員会では、知床でのこうした取り組みの成果や現状を、日本政府が「科学的に」報告し、問題なく保全活動が行われていることをアピールすることになるかと。




▲知床沖の氷の下を漂うクリオネ。産経ニュース(2015/03/01)




ということで、ドイツの宮殿から、世界遺産を決める国の議席数の話、最後は知床のトドとサケの話をしました。

世界遺産委員会の議論は、このように広範囲にわたるのです。。。


新しい世界遺産の誕生も楽しみですね。





この記事の続きはこちら




●関連記事
 世界遺産委員会の様子(画像)
 今年登録される?明治日本の産業革命遺産:九州・山口と関連地域
 世界遺産がない国の一覧







第39回世界遺産委員会:登録審議の案件一覧(34件+α)

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あと数週間後となった、今年の世界遺産委員会。

新たな世界遺産として、登録審議が行われる案件をご紹介しておきます。




▲世界遺産委員会の会場となる「World Conference Center Bonn」
世界遺産委員会の委員国など開催概要はこちら






■第39回世界遺産委員会:登録審議の案件一覧


●新規登録審議の案件一覧

今年は34件が新たな世界遺産として登録審議が行われる予定です。

 
No国名遺産名勧告区分推薦基準備考
1モンゴル・ロシアLandscapes of DauriaDN(ⅸ)(ⅹ) 
2スーダンSanganeb Marine National Park and Dungonab Bay - Mukkawar Island Marine National ParkDN(ⅶ)(ⅷ)(ⅸ)(ⅹ)Rev
3タイKaeng Krachan Forest ComplexRN(ⅹ) 
4ジャマイカBlue and John Crow MountainsI / IM(ⅲ)(ⅵ)(ⅸ)(ⅹ)Rev
5オーストリアHall in Tirol . The MintNC(ⅰ)(ⅱ)(ⅳ) 
6中国Tusi SitesIC(ⅱ)(ⅲ)(ⅵ) 
7デンマークChristiansfeld a Moravian SettlementIC(ⅲ)(ⅳ) 
8デンマークThe par force hunting landscape in North ZealandIC(ⅱ) 
9デンマーク・ドイツ・アイスランド・ラトヴィア・ノルウェーViking Age Sites in Northern EuropeDC(ⅲ)(ⅳ) 
10フランスClimats, terroirs of BurgundyRC(iii)(v) 
11フランスChampagne Hillsides, Houses and CellarsIC(ⅲ)(ⅳ)(ⅵ) 
12ドイツSpeicherstadt and Kontorhaus District with ChilehausIC(ⅰ)(ⅱ)(ⅲ)(ⅳ) 
13ドイツThe Naumburg Cathedral and the landscape of the rivers Saale and Unstrut - territories of power in the High Middle AgesNC(ⅳ)(ⅴ) 
14イランSusaIC(ⅰ)(ⅱ)(ⅲ)(ⅳ) 
15イランCultural Landscape of MaymandIC(ⅲ)(ⅳ)(ⅴ)Rev
16イスラエルBet She’arim Necropolis . A landmark of Jewish RenewalIC(ⅱ)(ⅲ)(ⅵ) 
17イタリアArab-Norman Palermo and the Cathedral Churches of Cefalu and MonrealeIC(ⅱ)(ⅳ) 
18日本Sites of Japan’s Meiji Industrial Revolution: Kyushu-Yamaguchi and Related AreasIC(ⅱ)(ⅲ)(ⅳ) 
19ヨルダンBaptism Site “Bethany Beyond the Jordan” (Al-Maghtas)RC(ⅲ)(ⅳ)(ⅵ) 
20ケニアThimlich Ohinga Cultural LandscapeDC(ⅲ)(ⅳ) 
21メキシコAqueduct of Padre Tembleque, Renaissance Hydraulic Complex in AmericaIC(i)(ii)(iv)(v)(vi) 
22モンゴルGreat Burkhan Khaldun Mountain and its surrounding sacred landscapeRC(ⅲ)(ⅳ)(ⅴ)(ⅵ) 
23ノルウェーRjukan . Notodden Industrial Heritage SiteIC(ⅱ)(ⅳ) 
24韓国Baekje Historic AreasIC(ⅱ)(ⅲ)(ⅳ) 
25ルーマニアMonumental Ensemble of Targu JiuNC(ⅰ)(ⅱ) 
26サウジアラビアRock Art in the Hail Region of Saudi ArabiaRC(ⅰ)(ⅱ)(ⅲ)(ⅴ) 
27シンガポールSingapore Botanic GardensIC(ⅱ)(ⅳ) 
28スペインLa Rioja and Rioja Alavesa Wine and Vineyard Cultural LandscapeDC(ⅱ)(ⅲ)(ⅴ)(ⅵ) 
29トルコEphesusIC(ⅰ)(ⅱ)(ⅲ)(ⅳ)(ⅵ)Rev
30トルコDiyarbak.r Fortress and Hevsel Gardens Cultural LandscapeRC(ⅰ)(ⅱ)(ⅲ)(ⅳ)(ⅴ) 
31ウガンダNyero and other hunter-gatherer geometric rock art sites in eastern UgandaDC(ⅲ)(ⅵ)
32英国The Forth BridgeIC(i)(ii)(iv) 
33米国San Antonio MissionsIC(ⅱ)(ⅲ)(ⅳ) 
34ウルグアイFray Bentos Cultural-Industrial LandscapeIC(ⅱ)(ⅳ)(ⅵ) 

※推薦基準は、当事国の推薦書に記載の登録基準。審議により変更になる可能性があります。
※登録基準の詳細はこちら
※C:文化遺産、N:自然遺産、M:複合遺産
※「勧告」は諮問機関(IUCN/ICOMOS)による事前の勧告を記載。
※I:記載、R:情報照会、D:記載延期、N:不記載。
※Rev:過去に登録審議を受けていましたが登録に至らず再度審議を受けるものです。
※出所:UNESCO World Heritage Center WHC-15/39.COM/8BWHC-15/39.COM/8B.Add



▲シンガポールの世界遺産候補「シンガポール植物園」。


うまくいけば、ジャマイカとシンガポールに初の世界遺産が誕生する予定です。






●登録変更に関する審議

また4件の世界遺産の「登録変更」について審議されます。

No国名遺産名勧告区分推薦基準備考
1南アフリカCape Floral Region Protected Areas OKN(ⅸ)(ⅹ)Bis
2ベトナムPhong Nha . Ke Bang National ParkOKN(ⅷ) + (ⅸ)(ⅹ)Bis
3グルジアGelati Monastery [Bagrati Cathedral and Gelati Monastery]RC(ⅳ)Bis
4スペインRoutes of Santiago in Northern Spain [Routes of Santiago de Compostela]OKC(ⅱ)(ⅳ)(ⅵ)Bis

※登録基準は、委員会開催前の登録基準。審議により変更になる可能性があります。
※登録基準の詳細はこちら
※C:文化遺産、N:自然遺産、M:複合遺産
※「勧告」は諮問機関(IUCN/ICOMOS)による事前の勧告を記載。
※OK:記載変更可、R:情報照会、D:記載変更延期、NG:記載変更不可
※出所:UNESCO World Heritage Center WHC-15/39.COM/8BWHC-15/39.COM/8B.Add



各国が提案している変更内容について、ちょっとだけ説明しておきます。


Cape Floral Region Protected Areas
ケープ植物区保護地域群

南アフリカ 登録年:2004年 登録基準:(ⅸ)(ⅹ)
⇒登録済みの8つの保護区から5つの保護区を追加し、全体で553,000ha→1,094,741haのコアエリアと周辺のバッファーゾーンに拡大する提案です。面積としては2倍近くになるほど。(登録済みの保護区の範囲拡大も含まれます)
詳細はこちら(WHC)


Phong Nha - Ke Bang National Park
フォンニャ=ケバン国立公園

ベトナム 登録年:2003年 登録基準:(ⅷ)+(ⅸ)(ⅹ)
⇒登録基準:(ⅸ)(ⅹ)の追加に関する提案です。2003年の登録当初からこの国立公園内の貴重な生態系が世界遺産の登録基準(ⅸ)(ⅹ)に合致する可能性が議論されてきましたが、保全体制の不備などを理由に見送られてきました。2013年に国立公園の範囲が拡大されるなど、保全体制の強化が推進され今回の提案に至っています。
詳細はこちら(WHC)


Gelati Monastery [Bagrati Cathedral and Gelati Monastery]
ゲラティ修道院 [バグラティ大聖堂とゲラティ修道院]

グルジア 登録年:1994年 危機遺産:2010年 登録基準:(ⅳ)
⇒これまでバグラティ大聖堂とゲラティ修道院として登録されていたものを、「ゲラティ修道院のみ」に限定するという提案です。バグラティ大聖堂が「顕著な普遍的価値を損なう可能性の高い」再建計画を進めていることから、この世界遺産は2010年に「危機遺産」に指定されました。再建が完了してしまったことを受け、2014年の世界遺産委員会ではこれを除外せざるを得ないという結論に至り、今回、グルジア政府からこのような提案がさたわけです。
詳細はこちら(WHC)


Routes of Santiago in Northern Spain [Routes of Santiago de Compostela]
スペイン北部のサンティアゴ巡礼路 [サンティアゴ・デ・コンポステーラの巡礼路]

スペイン 登録年:1993年 登録基準:(ⅱ)(ⅳ)(ⅵ)
⇒スペイン国内に残るサンティアゴへの巡礼路のうち、これまで登録されていた内陸のルートに加え、海岸沿いのルートなども追加するという提案です。
詳細はこちら(WHC)



登録範囲の変更は、必ずしもポジティブな理由だけではないわけです。



▲世界遺産からはずれるかもしれないバグラティ大聖堂(グルジア)



▲サンティアゴ・デ・コンポステーラの巡礼路:赤線部分が現在の登録範囲。フランス側でも世界遺産に登録されています。(青線部分)




●危機遺産に指定されるかもしれない世界遺産

世界遺産委員会では、新たな世界遺産の登録や変更の審議のほかに、世界遺産の「保全状況」の議論もおこなわれます。
今年は、46件の危機遺産と、92件の世界遺産が対象となっています。(日本の世界遺産「知床」の保全状況も審議されます。詳細はこちら

なかでも、「決議案」の段階で「危機遺産に指定する」とされている、かなりきわどい世界遺産が以下4件です。
※出所:UNESCO World Heritage Center WHC-15/39.COM/7BWHC-15/39.COM/7B.Add


セラード自然保護地域のベアデイロス平原国立公園とエマス国立公園
ブラジル 登録年:2001年 登録基準:(ⅸ)(ⅹ)
⇒世界遺産の登録範囲の多くが、事実上法的な管理保護下にない状態が続いてきたため。
詳細はこちら(WHC)


ザンジバル島のストーン・タウン
タンザニア 登録年:2000年 登録年:2001年 登録基準:(ⅱ)(ⅲ)(ⅵ)
⇒高層ホテルの建設など、伝統的な都市景観への悪影響が大きいため。
詳細はこちら(WHC)


円形都市ハトラ
イラク 登録年:1985年 登録基準:(ⅱ)(ⅲ)(ⅳ)(ⅵ)
⇒紛争勃発によって歴史的建造物が破壊されるとともに保全が困難な状況ため。
詳細はこちら(WHC)


カトマンズの谷
ネパール 登録年:1979年 登録基準:(ⅲ)(ⅳ)(ⅵ)
⇒2015年4月に発生した大地震による甚大な被害のため。
詳細はこちら(WHC)



また、こういう話もありますね。

サウジ主導の連合軍、世界遺産のサヌア旧市街を空爆 イエメン


エメンの首都サヌア(Sanaa)で12日未明、国連教育科学文化機関(UNESCO、ユネスコ)の世界遺産に登録されている旧市街が、サウジアラビア主導の連合軍による空爆を受け、5人が死亡、住宅3棟が破壊された。(略)
AFP(2015/06/12)


これ以外にも、危機遺産の指定を視野に入れた保全強化が必要となっている案件がいくつもあり、今回の世界遺産委員会で審議される予定です。






■今年も日本に世界遺産が誕生するか?

ついでなので、この話も。

前述の通り、今年は日本の世界遺産候補「明治日本の産業革命遺産」が登録審議を受けます。
登録されれば国内19件目の世界遺産になるわけですが。。。


※世界遺産候補としての詳細はこちらの記事をご参照ください。



●明治日本の産業革命遺産の登録に向けて

まず、最近のトピックスをまとめておきましょう。

世界文化遺産:「明治日本の産業革命遺産」に登録勧告

日本が世界文化遺産に推薦していた「明治日本の産業革命遺産 九州・山口と関連地域」(福岡、長崎、静岡など8県)について、世界遺産への登録の可否を調査する諮問機関「国際記念物遺跡会議」(イコモス、本部・パリ)は4日、「登録が適当」と国連教育科学文化機関(ユネスコ)に勧告した。
勧告は「西洋から非西洋国家に初めて産業化の伝播(でんぱ)が成功したことを示す」「1853年から1910年までのわずか50年余りという短期間で急速な産業化が達成された段階を反映している」として普遍的価値があると評価した。6月にドイツのボンで開かれる第39回ユネスコ世界遺産委員会で正式決定する。イコモスが登録を勧告した場合、世界遺産委員会でもそのまま認められる可能性が極めて高い。(略)
毎日新聞(2015/05/04)


我が国の推薦資産に係る世界遺産委員会諮問機関による評価結果及び勧告について(第二報)
今般、我が国から推薦を行っている「明治日本の産業革命遺産 九州・山口と関連地域」について、ユネスコ世界遺産委員会の諮問機関であるICOMOS(イコモス)による勧告がユネスコ世界遺産センターより通知されました。
イコモスの評価結果と推薦に係るこれまでの経緯は下記の通りです。
1.ICOMOSの評価結果及び勧告の内容
推薦案件の名称を「明治日本の産業革命遺産 製鉄・鉄鋼、造船、石炭産業」と変更した上で、「記載」勧告がなされた。(23の構成資産全てが本件遺産の構成要素として認められた。)
内閣官房産業遺産の世界遺産登録推進室(2015/05/04)


微妙なところですが、この世界遺産候補は「名称が変更になる」可能性が高いということです。
 変更前 明治日本の産業革命遺産 九州・山口と関連地域
  ↓
 変更後 明治日本の産業革命遺産 製鉄・鉄鋼、造船、石炭産業

ついでに言えば、日本が推薦している登録基準のうち(ⅲ)は認められませんでした。


日韓、世界遺産で溝埋まらず 第2回会合
日韓両政府は9日、「明治日本の産業革命遺産」の世界遺産登録をめぐる実務者協議の第2回会合をソウルで開いた。日本が登録をめざす一部施設で朝鮮半島出身者が強制徴用された歴史の扱いで、双方の主張の隔たりは埋まらなかった。次回協議に向け日程を調整する。
韓国側は日本が登録をめざす23施設のうち7施設で植民地時代に朝鮮半島出身者が強制徴用された歴史も反映させるべきだとの要求に基づく案を提示した。7施設の登録除外には言及しなかった。日本側は産業遺産の対象は1850年代から1910年で徴用工問題とは時期も背景も異なるとの立場を改めて伝えた。(略)
日本経済新聞(2015/06/09)


という形で、ICOMOSは「記載」の勧告をしましたが、政治的な理由により日本の推薦内容に反対する国々もあります。




●諮問機関ICOMOSの勧告内容は?

さて、政治的なことはさておき、諮問機関ICOMOSの勧告内容をちょっとよくみておきましょう。
このようなことが記載されています。世界遺産登録にあたっての「前提条件」つまり「日本への宿題事項」となる部分です。

イコモスは、評価基準(ⅱ)(ⅳ)の下に「明治日本の産業革命遺産 製鉄・鉄鋼、造船、石炭産業」を世界遺産一覧表に記載することを勧告する。

イコモスは、推薦国が以下に配慮することを併せて勧告する。
a)端島炭鉱について、優先順位を明確にした保全措置の計画を策定すること。
b)推薦資産およびその構成資産に関する優先順位を付した保全措置の計画及び実行計画を策定すること。
c)資産への悪影響を軽減するため、各構成資産における受け入れ可能な来訪者の上限数を定めること。
d)推薦資産およびその構成資産の管理保全のための新たな枠組みの有効性について、年次ベースでモニタリングを行うこと。
e)管理保全計画及び地区別保全協議会での協議事項・決議事項の実施状況について、年次ベースでモニタリングを行うこと。
f)各構成資産の日々の管理に責任を持つあらゆるスタッフ及び関係者が、能力を培い推薦資産の日常の保全、管理、理解促進について一貫したアプローチを講じられるよう、人材育成計画を策定し、実施すること。
g)推薦資産に関する説明(インタープリテーション)の計画を策定し、各構成資産がいかにOUVに貢献し産業化の1又は2以上の段階を反映しているかを特に強調すること。また、各サイトの歴史全体についても理解できる計画とすること。
h)集成館及び三重津海軍所跡における道路建設計画、三池港における新たな係留施設に関するあらゆる開発計画及び来訪者施設の増設・新設に関する提案について、「世界遺産条約履行のための作業指針」に沿って、審議のため世界遺産委員会に提出すること。

また、イコモスは、2018年の第42回世界遺産委員会での審議のため、2017年12月1日までに、上記に関する進捗状況の報告を世界遺産センターに提出するよう推奨する。

内閣官房産業遺産の世界遺産登録推進室(2015/05/04)の訳による。
※原文:UNESCO World Heritage Center WHC-15/39.COM/INF.8B1 P.103



日本の推薦に反対する国々の「根拠」となり得るのが、ICOMOSの勧告のこの部分でしょうね。

g)推薦資産に関する説明(インタープリテーション)の計画を策定し、各構成資産がいかにOUVに貢献し産業化の1又は2以上の段階を反映しているかを特に強調すること。また、各サイトの歴史全体についても理解できる計画とすること。
g)Preparing an interpretive strategy for the presentation of the nominated property, which gives particular emphasis to the way each of the sites contributes to OUV and reflects one or more of the phases of industrialisation; and also allows an understanding of the full history of each site;

※OUV:Outstanding Universal Value (顕著な普遍的価値)

「各サイトの歴史全体についても理解できる計画」が今後必要であるということを、ICOMOSが指摘しています。

世界遺産登録の通例では、上記の勧告の主語を「イコモス」ではなく「世界遺産委員会」に替えて、「決議案」が作成され、(特に異議の余地のないものは)そのまま可決されます。
要するに、「このままの文章で」「登録」に至るのが「一般的」ということです。

今回はわかりませんが。




●世界遺産委員会でのICOMOSのプレゼンは?

で、そもそもの話ですが、諮問機関ICOMOSは、世界遺産候補の何をどう評価するのか?

世界遺産委員会の登録審議では、まず初めにICOMOSがプレゼンをします。
推薦資産の概要を説明し、以下の観点での勧告内容を説明します。

Outstanding Universal Value
 Integrity完全性
 Authenticity真正性
 Comparative analysis比較研究
 Criteria登録基準
Conservation, protection, and management
 Boundaries境界線
 Protection保護
 Conservation保全
 Management管理



▲過去の世界遺産委員会でのスクリーンショット(ICOMOS)


▲過去の世界遺産委員会でのスクリーンショット


世界遺産としての「価値」の観点と「保全管理」の観点で、おおきく8つのチェックポイントを評価するわけです。

さて、今回の日本の案件に関して、ICOMOSが「前提条件」を指摘しているのはどこか?といったら、「Management」の一部と解釈できるかと。
世界遺産としての価値があり保全管理にも問題ない。ただ管理にあたっては、「Interpretive Strategy」を用意しておきなさいね。というトーン。

Outstanding Universal Value勧告
 Integrity完全性
 Authenticity真正性
 Comparative analysis比較研究
 Criteria登録基準(ⅱ)(ⅳ)
Conservation, protection, and management勧告
 Boundaries境界線
 Protection保護
 Conservation保全
 Management管理


ICOMOSは、条件つきとはいえ、日本の推薦内容に問題点はないと勧告しています。




●登録審議が延期された事例

ちなみに、諮問機関ICOMOSが「記載(=登録)」の勧告をしながら、登録が見送られた事例は、過去に1件だけあります。

イスラエルの「ダンの3連アーチ門」です。



▲Triple-arch Gate at Dan & Sources of the Jordan(イスラエル,ダンの3連アーチ門)詳細はこちら(WHC)

この世界遺産候補にはこのような経緯がありました。

2008年
ICOMOSは「記載」の勧告を出したが、世界遺産委員会では、世界遺産の登録基準を満たすが、追加の情報・法的技術的データの提供が必要と決議。[情報照会]
詳細はこちら

2009年
世界遺産委員会は、世界遺産としての価値があり、追加の情報を受け取ったが、次回の世界遺産委員会で正式登録されるよう世界遺産センターに調整を要請することを決議。
詳細はこちら

2010年
世界遺産委員会は、さらに追加の情報があるまで審議を延期することを決議。
詳細はこちら

2011年
国境が画定されるまで審議を延期する。
詳細はこちら


最終的な決議をチェックリストにするとこんな感じでしょうか。

Outstanding Universal Value勧告決議
 Integrity完全性
 Authenticity真正性
 Comparative analysis比較研究
 Criteria登録基準(ⅱ)(ⅱ)
Conservation, protection, and management勧告決議
 Boundaries境界線
 Protection保護
 Conservation保全
 Management管理


登録に反対した国々は、この世界遺産の「イスラエルによる領有権」に疑問があるという主張でした。
そのため「保全管理」全体の正当性に疑問がでてしまったという事例です。
「明治日本の産業革命遺産」とはだいぶレベルの異なる話なのかなと。


※世界遺産プレアヴィヘア寺院の領有をめぐりカンボジアとタイで紛争が勃発した話はこちらをどうぞ。



▲英国の世界遺産候補"The Forth Bridge"(フォース鉄道橋)詳細はこちら






というわけで、今年も例年通り、20件を超える世界遺産が誕生する見通しです。

そして、例年通り、世界遺産をとりまく様々な課題が議論されます。

審議の様子は、UNESCOのWebsiteでリアルタイムに配信される予定ですので、追ってご紹介しますね。





●関連記事
 明治日本の産業革命遺産とは何か?
 日本の世界遺産(自然遺産)はあといくつ増える?
 世界遺産がない国は?
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第39回世界遺産委員会:アジェンダ・タイムテーブル

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いよいよ来週に迫った、今年の世界遺産委員会。

会期中のタイムテーブルをご紹介しておきます。

日本の世界遺産候補「明治日本の産業革命遺産」の登録審議は、7月4日(土)か7月5日(日)になりそうです。


世界遺産委員会の委員国など開催概要はこちら





▲ドイツの世界遺産候補チリハウス






■第39回世界遺産委員会:タイムテーブル
Agenda and Timetable of the 39th session of the World Heritage Committee


今年はドイツのボンで、6月28日~7月8日にかけて開催される世界遺産委員会ですが、このようなタイムテーブルで進行される予定です。

※今年審議される予定の世界遺産候補(34件)についてはこちら
※日本とドイツとの時差は7時間(サマータイム)です。(下記時刻に+7時間が日本時間)
※初日は開会準備とオープニングセレモニーのみなので割愛しています。



日付時間帯時刻No議題
2015年
6月29日(月)
9:30

13:00
9:302オブザーバー入場
9:403アジェンダ・タイムテーブル採決
10:004前回委員会の報告(ラポラトール)
10:305Eグローバルストラテジーに関するフォローアップ状況の評価・勧告(諮問機関)
10:4511世界遺産条約履行に関する作業指針の改定(諮問機関)
11:00152014年・2015年の予算実行報告、2016年・2017年の予算計画(諮問機関)
11:155A世界遺産センターの活動報告・世界遺産委員会決議事項の進捗報告
12:005B諮問機関からの報告
12:30-紛争地域における世界遺産懸案事項(議長)
15:00

18:30
15:005C世界遺産に関する展望(ユネスコ事務局長)に関するフォローアップ
16:0013A世界遺産候補の評価と意思決定に関する作業方法について(特別作業部会からの報告内容)
17:005D世界遺産条約と持続可能な開発
17:306世界遺産保全のための人材開発戦略(Capacity-building Strategy)のフォローアップ、関連組織(Category 2)の進捗報告


日付時間帯時刻No議題
2015年
6月30日(火)
9:30

13:00
9:307世界遺産の保全状況(概要)
10:307A危機遺産の保全状況
15:00

18:30
15:007A危機遺産の保全状況


日付時間帯時刻No議題
2015年
7月1日(水)
9:30

13:00
9:307B世界遺産の保全状況
15:00

18:30
15:007B世界遺産の保全状況


日付時間帯時刻No議題
2015年
7月2日(木)
9:30

13:00
9:307B世界遺産の保全状況
15:00

18:30
15:007B世界遺産の保全状況


日付時間帯時刻No議題
2015年
7月3日(金)
9:30

13:00
9:308A世界遺産暫定リスト(2015年4月15日時点の各国の提出案件)
10:008B世界遺産候補案件(登録審議)
15:00

18:30
15:008B世界遺産候補案件(登録審議)



日付時間帯時刻No議題
2015年
7月4日(土)
9:30

13:00
9:308B世界遺産候補案件(登録審議)
15:00

18:30
15:008B世界遺産候補案件(登録審議)


日付時間帯時刻No議題
2015年
7月5日(日)
9:30

13:00
9:308B世界遺産候補案件(登録審議)
15:00

18:30
15:008B世界遺産候補案件(登録審議)



日付時間帯時刻No議題
2015年
7月6日(月)
9:30

13:00
9:308D2007年以前に登録された世界遺産に関する分析(Retrospective Inventory)
9:458E2007年以前に登録された世界遺産に関する顕著な普遍的価値宣言のレビュー
10:008C世界遺産一覧表・危機遺産一覧表の改定
10:159A世界遺産推薦・登録に関する上流工程についての進捗報告
11:009B複合遺産推薦プロセス再考に関する進捗報告
11:3013A世界遺産候補の評価と意思決定に関する作業方法について(採択)
15:00

18:30
15:0010Aヨーロッパ地域における定期報告第2サイクルとその活動計画に関する最終報告
16:0010Bその他の地域における定期報告第2サイクルに関する概況報告
16:3012政策指針案に関する進捗報告
17:0011世界遺産条約履行に関する作業指針の改定(諮問機関)
17:455Eグローバルストラテジーに関するフォローアップ状況の評価・勧告(諮問機関)



日付時間帯時刻No議題
2015年
7月7日(火)
9:30

13:00
9:3013B世界遺産委員会の定期開催追加に関する検討
10:0014国際支援活動
10:30152014年・2015年の予算実行報告、2016年・2017年の予算計画(諮問機関)
11:3016その他の検討事項
11:4517第40回世界遺産委員会(2016年)の議長国・副議長国・ラポラトールの選出
12:3018第40回世界遺産委員会(2016年)の議題
10:0019第39回世界遺産委員会決議事項の採択

※出所:WHC-15/39.COM/3B.Rev(WHC)
※No:議案の番号。議案に関連する文書はこちらの番号と対応しています。





▲昨年の世界遺産委員会で「富岡製糸場と絹産業遺跡群」が登録された瞬間の動画。
※登録審議全体の動画はこちら




やはり、注目ポイントはこのへんでしょうか。

 7A:危機遺産の保全状況・・・危機遺産の指定継続/解除などが決定されます。[6月30日(火)]
 7B:世界遺産の保全状況・・・危機遺産の指定などが決定されます。[7月1日(水)~7月2日(木)]
 8B:世界遺産候補案件(登録審議)・・・世界遺産への登録が審議されます。[7月3日(金)~7月5日(日)]


ちなみに、世界遺産候補の登録審議は、自然遺産→複合遺産→文化遺産の順で行われるのが慣例となっています。文化遺産は件数が多いので進行状況に応じて審議の順序が変わります。
※今年審議される予定の世界遺産候補(34件)についてはこちら


なお、13:00~15:00はランチタイムが設定されていますが、この時間が案外重要だったりします。

議論が行き詰った場合は、議長の指名で数ヶ国の代表がワーキンググループとしてランチタイムにヒザを突き合わせて議論したり、各国代表の「ロビー活動」もこの時間に行われますので。。。
※詳しい話はこちらの記事をご参照ください。





▲韓国の世界遺産候補「百済の歴史地区」






というわけで、新しい世界遺産の誕生が楽しみですね!!





●関連記事
 2015年の世界遺産候補(34件)
 2014年に誕生した世界遺産
 世界遺産の「5C」とは何か?







世界遺産委員会の観戦方法:ライブビューイング・ストリーミング(動画配信)

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昨日(6/29)に開会した今年の世界遺産委員会。

審議の様子をライブビューイングできますので、ご紹介しましょう。

世界遺産委員会の委員国など開催概要はこちら


▲アメリカの世界遺産候補アラモ伝道所 (San Antonio Missions, The chapel of the Alamo Mission)






■世界遺産委員会の観戦方法:ライブビューイング・ストリーミング(動画配信)

世界遺産委員会の審議の様子は長い間非公開でしたが、2012年より全世界に生配信されています。
とても簡単にライブビューイングができますので、その「観戦方法」をご紹介しましょう。



●用意するもの
用意するものはこれだけでOK。
・PCもしくはタブレット・スマートフォン
・インターネット接続環境


●ライブビューイングのURL
UNESCO世界遺産センターのWebsiteからアクセスすることができます。事前のユーザ登録なども不要です。

2015年:第39回世界遺産委員会のライブビューイングはこちら


●ライブビューイングの視聴方法
ページの下のほうにある「Watch Live」または「TVマーク」をクリックすれば、ストリーミングが始まります。

※「English」「Francais」「Floor」のボタンの意味はそれぞれ、「英語同時通訳音声」「仏語同時通訳音声」「同時通訳なし」です。

このように審議が開始されていない場合、配信ももちろん休止してます。右側にアジェンダや関連文書へのリンクが表示されていますね。

※会期中のタイムテーブルはこちらをご参照ください。
第39回世界遺産委員会:アジェンダ・タイムテーブル


●あると便利なもの
世界遺産の登録審議の様子をライブビューイングする際に、あると便利なものをご紹介しておきます。
登録審議は、7月3日(金)15:00(日本時間 22:00)に開始され、7月5日(日)18:30(日本時間 25:30)までの予定です。詳細はこちら

①審議対象物件の一覧
登録審議の対象となる物件の一覧を見ながらだとわかりやすいです。こちらの記事もしくは、こちらのPDFファイルをご参照ください。
※ライブビューイングのページにも「Document」のリンクがありますね。登録審議は「8B」です。
※原文はこちらWHC-15/39.COM/8B

②UNESCOの公式Twitter
UNESCOの公式Twitterアカウントをフォローしておくと便利です。審議の状況をほぼリアルタイムにつぶやいてくれます。

@UNESCO

③諮問機関の勧告文書
これはマニア向けです。①の一覧表に諮問機関の勧告(つまり登録すべきかどうかについて)の「I(記載)」「R(情報照会)」「D(記載延期)」「N(不記載)」がわかるようになっているのですが、その詳細を知りたいかたはどうぞ。
 WHC-15/39.COM/INF.8B1(ICOMOSの勧告)
 WHC-15/39.COM/INF.8B1.Add(ICOMOSの勧告補足)
 WHC-15/39.COM/INF.8B2(IUCNの勧告)
 WHC-15/39.COM/INF.8B2.Add(IUCNの勧告補足)




●登録審議の流れ

過去の記事でもご紹介しましたが、世界遺産委員会での登録審議の流れはこのようになっています。

①諮問機関により勧告内容のプレゼンテーション
世界遺産委員会の登録審議では、まず初めに諮問機関がプレゼンをします。推薦資産の概要を説明し、以下の観点での勧告内容を説明します。

Outstanding Universal Value
 Integrity完全性
 Authenticity真正性
 Comparative analysis比較研究
 Criteria登録基準
Conservation, protection, and management
 Boundaries境界線
 Protection保護
 Conservation保全
 Management管理


▲過去の世界遺産委員会でのスクリーンショット(ICOMOS)


▲過去の世界遺産委員会でのスクリーンショット


②世界遺産員会各国代表の発言
各国代表は諮問機関の勧告内容をふまえ決議案について発言します。発言したい場合は国名の書いてあるボードを縦にして挙手。議長が指名します。
 
 


③決議案の修正・採択
予め用意されている決議案の修正が必要になった場合は、ラポラトールがその場で決議案の修正を行います。議長は修正後の決議案について再度各国の意見を確認します。
最終的に反対意見がでなければその決議案が採択されたことを議長が宣言します。
大切なことはすべて世界遺産が教えてくれた ~世界遺産検定マイスターのブログ~
▲ラポラトール。Word文書をスクリーンに映しながら決議案に加筆・修正を加えていきます。


▲議長が採択を宣言。木槌(ガベル)を叩きます。


③’投票
まれなケースですが、審議が難航し各国代表の意見が分かれてしまった場合は、投票によって決定することもあります。
大切なことはすべて世界遺産が教えてくれた ~世界遺産検定マイスターのブログ~
▲パレスチナ初の世界遺産登録にあたっての投票の様子。「賛成」「反対」の票のみが「総数」としてカウントされ、その総数のうちの3分の2以上の賛成があれば、登録にいたるという内容です。(白紙や不在は総数にカウントされない)


④推薦国のスピーチ(登録が決定した場合)
登録が決定した場合は、推薦国の代表がスピーチをするのが慣例となっています。喜びにわく各国代表の様子は、世界遺産委員会の見どころの一つでもありますね。

▲富岡製糸場が登録された際の日本代表のスピーチ




●第39回世界遺産委員会が開会

とうわけで、冒頭のとおり今年の世界遺産員会は6月29日(月)に開会しており、すでにその様子も配信されています。

世界遺産委開幕、「イスラム国」への非難相次ぐ
「明治日本の産業革命遺産」(福岡など8県、23資産)の世界文化遺産登録の可否を審議する国連教育・科学・文化機関(ユネスコ)の世界遺産委員会が28日(日本時間29日)、ドイツ・ボンで開幕した。
開幕式典では、イスラム過激派組織「イスラム国」による文化遺産破壊への非難が相次いだ。
議長国ドイツのメルケル首相はビデオメッセージを寄せ、故意の文化遺産破壊を「戦争犯罪」と呼び、激しく非難。ユネスコのイリナ・ボコバ事務局長も、シリア中部の古代都市遺跡パルミラに地雷や爆弾を仕掛けたとされる「イスラム国」が「(中東)地域での人類の遺産抹消を狙っている」と述べ、危機感をあらわにした。(略)
読売新聞(2015/06/29)


この記事にあるスピーチの動画がこちら。


▲ドイツ メルケル首相のスピーチ



▲ユネスコ イリナ・ボコバ事務局長のスピーチ(前半英語・後半仏語)



 
▲今週末世界遺産の登録審議を受ける明治日本の産業革命遺産の構成資産。韮山反射炉。
伊豆の国市では登録審議を「パブリックビューイング」をするそうです。




●おまけ:TBS 世界遺産のWebsite

最後におまけです。
TBS 「世界遺産」のWebsiteでは、プロデューサーさんが、世界遺産委員会の様子を現地から更新してくれています。これ必見です!



こちらです(TBS)






以上、世界遺産のライブビューイングのしかたと、今年の開会セレモニーの様子についてご紹介しました。

世界遺産には、地球上にあるかけがえのない遺産を「全世界に伝える」という役割がありますが、世界遺産員会の動画配信はまさにそれを象徴していますね。


皆さんも世界遺産の歴史の「目撃者」になってみてはいかがでしょうか?







●関連記事
 第39回世界遺産委員会の開催概要
 第39回世界遺産委員会:アジェンダ・タイムテーブル
 2015年の世界遺産候補(34件)
 2014年に誕生した世界遺産
 世界遺産の「5C」とは何か?




真正性・完全性とは何か?(世界遺産条約履行のための作業指針)

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世界遺産の登録・保全において、もっとも重要な概念といってもいいのが、「真正性」と「完全性」です。

世界遺産検定でも出題される内容ですので、ご紹介しておきましょう。







■真正性・完全性とはなにか?

真正性・完全性は、世界遺産登録のための「必要条件」であり、文化遺産や自然遺産を「どうやって保存・保全していくか」に関する概念です。

概念ポイント対象
真正性Authenticity価値を継承しているかどうか文化遺産・複合遺産
完全性Integrity価値を特徴づける要素・管理体制が完全かどうか文化遺産・複合遺産・自然遺産

まずは、真正性とは何か?
いくつか世界遺産の事例を挙げながらご説明しましょう。





●真正性(Authenticity)

「真正性(Authenticity)」をひとことでいうと、その建築物や景観が「本来の価値」を「継承している」かどうか?のことを指します。
世界遺産条約においては、「文化遺産・複合遺産」が満たすべき「必要条件」です。




▲アミアンの大聖堂(フランス,1981年,登録基準:(ⅰ)(ⅱ)WHC


たとえば、フランスの世界遺産「アミアンの大聖堂(ノートルダム大聖堂)」は、13世紀末に現在の形で建造されました。多少の修復は行われたものの、大聖堂のファサード(正面)にある素晴らしい彫像から、内部の装飾にいたるまで、「建設当時の状態」がほぼ完全な形で保たれています。
つまり、真正性が確保されている状態です。

そして、この世界遺産は以下の登録基準が認められています。

(ⅰ) 人類の創造的才能を表す傑作である。
(ⅱ) ある期間、あるいは世界のある文化圏において、建築物、技術、記念碑、都市計画、景観設計の発展における人類の価値の重要な交流を示していること。


人類の傑作(ⅰ)・・・「当時と変わらぬ姿で」人類の傑作であることを現在に伝えています。
建築の発展における人類の価値の交流(ⅱ)・・・フランスにおけるゴシック建築の代表としての「当時の姿」を現在に伝えています。

このように、建築物の「真正性」が確保されているため、これらの登録基準を満たしていることが「信用できる」わけです。
また、世界遺産を推薦する側からいえば、真正性を証明しなければ、世界遺産に登録できないということになります。





●真正性(Authenticity)の新しい定義

西洋の建築物の真正性はわかりやすいですが、一方でこういう疑問もでてきますよね?

Q.木や土でできた建築物の真正性はどうなるのか?
Q.景観の真正性をどう考えればいいか?


現在の世界遺産における真正性の定義は以下の内容です。

文化遺産の種類、その文化的文脈によって一様ではないが、資産の文化的価値(登録推薦の根拠として提示される価値基準)が、下に示すような多様な属性における表現において真実かつ信用性を有する場合に、真正性の条件を満たしていると考えられ得る。
・形状、意匠
・材料、材質
・用途、機能
・伝統、技能、管理体制
・位置、セッティング
・言語その他の無形遺産
・精神、感性
・その他の内部要素、外部要素

The Operational Guidelines for the Implementation of the World Heritage Convention(2013).pdf para.82


木や土の建築物も、同じ材質・形状・建築技法で修復されてきたものは、真正性が確保されているということになります。

日本の世界遺産「日光の社寺」の場合、建築物の表面を定期的に彩色するなどの保存活動が行われていますが、この技術や技術者の育成が、世界的にも高く評価されています。将来にわたって真正性を担保するための絶え間ない努力ですね。(この修復作業を見学するツアーがあるほどです)
※詳しくはこちら(日光市)


▲日光の社寺(日本,1999年,登録基準:(ⅰ)(ⅳ)(ⅵ)WHC



真正性の定義には、さらにこのような補足がされています。

精神や感性といった属性を、実際に真正性の条件として適用するのは容易ではないが、それでもなお、それらは、例えば伝統や文化的連続性を維持しているコミュニティにおいては、その土地の特徴や土地感を示す重要な指標である。
The Operational Guidelines for the Implementation of the World Heritage Convention(2013).pdf para.83


たとえば、フィリピンの世界遺産「フィリピン・コルディリェーラの棚田群」は、山岳民族イフガオ族が2000年以上にわたって、「この景観を継承してきた」とされます。
景観を継承してきたといえる根拠のひとつは、イフガオ族のコミュニティーがその伝統を維持してきたからです。


▲フィリピン・コルディリェーラの棚田群(フィリピン,1995年,登録基準:(ⅲ)(ⅳ)(ⅴ)WHC

棚田の設計図や手順書などの確証がなくても、その土地の人々の「伝統的な営み」そのものが「真正性の条件」のひとつと定義されているわけです。




●補足:真正性(Authenticity)の経緯

さて、現在の真正性の定義に至るまでにはいくつかの経緯がありました。世界遺産検定でも出題されそうなところを補足してきます。

①アテネ憲章(1931年)
1931年にアテネで開催された第1回歴史記念建造物関係建築家技術者国際会議にて採択された、歴史的建造物の保護と修復に関する合意事項。第一次世界大戦を経て、ヨーロッパ諸国を中心に歴史的建造物を保存・保護して次世代に残していくことを目的として合意されたものです。
ここでは、「修復のための材料」として「鉄筋コンクリートなどの近代的な技術のすべての可能性が適切に用いられること」と定義されていました。
※詳細はこちら(日本イコモス国内委員会)

②ヴェネツィア憲章(1964年)
1964年、ヴェネツィアで開催された第2回歴史的記念物の建築家・技術者国際会議において採択された、歴史的建造物の保存・修復に関わる国際的合意事項。第二次世界大戦後、ユネスコが設立されたのちにできたものです。この合意にもとづき、現在世界遺産委員会の諮問機関であるICOMOS(国際記念物遺跡会議、1965年~)が設立されました。
ヴェネツィア憲章では以下のことがうたわれています。
・(修復は)オリジナルな材料と確実な資料を尊重することに基づく。
・推測による修復を行ってはならない。
・推測による修復に際してどうしても必要な付加工事は、建築的構成から区別できるようにし、その部材に現代の後補を示すマークを記しておかなければならない。
※詳細はこちら(日本イコモス国内委員会)

③奈良文書(1994年)
1994年、奈良市にて開催された「世界遺産条約における真正性についての奈良会議」にて採択された、真正性の新しい定義に関する合意事項。これまでのヨーロッパの文化にもとづいた真正性の考え方だけでなく、文化と遺跡の多様性を包含できるように、より柔軟に定義され、現在のガイドラインとなっているものです。
※詳細はこちら(日本イコモス国内委員会)


要約するとこういう経緯でした。

①アテネ憲章:近代技術を駆使して歴史的建造物を保存・保護していこう。
②ヴェネツィア憲章:保存・保護は大切だが、オリジナルな材料と資料に基づいて修復することを原則とする。
③奈良文書:それぞれの文化や歴史に応じた保存・修復技術を認める。


以上が、真正性についてのお話でした。

続いて完全性についてです。






●完全性(Integrity)

「完全性(Integrity)」をひとことでいうと、その遺産がもつ「価値を特徴づける要素が完全に含まれるかどうか」「そのための管理体制が完全かどうか」のことを指します。
世界遺産条約においては、「文化遺産・自然遺産・複合遺産」すべてが満たすべき「必要条件」です。





世界遺産条約における完全性は以下のように定義されています。

完全性は、自然遺産及び/又は文化遺産とそれらの特質のすべてが無傷で包含されている度合いを測るためのものさしである。従って、完全性の条件を調べるためには、当該資産が以下の条件をどの程度満たしているかを評価する必要がある。
a) 顕著な普遍的価値が発揮されるのに必要な要素がすべて含まれているか。
b) 当該資産の重要性を示す特徴を不足なく代表するために適切な大きさが確保されているか。
c) 開発及び/又は管理放棄による負の影響を受けているか。
以上について、完全性の宣言において説明を行うこと。

The Operational Guidelines for the Implementation of the World Heritage Convention(2013).pdf para.88


文化遺産・自然遺産でそれぞれ具体的に定義されていますので、ご紹介します。




●文化遺産の完全性

まずは、文化遺産の完全性とはどういうものか?
完全性という概念は「登録範囲」をイメージすると理解しやすいです。


たとえば、日本の世界遺産「姫路城」の登録範囲は、下の地図のどのあたりでしょう??


▲姫路城(日本,1993年,登録基準:(ⅰ)(ⅳ)WHC




正解はこちら。


※赤枠内がコアエリア。およそ姫路城の中曲輪(2つめの堀で囲まれたエリア)の範囲。さらに周辺にバッファーゾーンが設定されています。

ここで思い出していただきたいのが完全性の定義。
姫路城の「歴史的な価値」を表現するのには、現存する天守閣を中心とした建造物だけでなく、中曲輪も必要だったわけです。
(意外かもしれませんが、現在は学校や病院などがあるところも世界遺産)

また、世界遺産の登録範囲内は、当該国の法律によって保全されている必要がありますが、これらのエリアは文化財保護法で特別史跡として指定されています。
(姫路城の場合、文化財保護法の指定範囲が、世界遺産の登録範囲と一致しています)

したがって、この登録範囲は、価値の観点・管理保全の観点ともに、「完全性を満たしている」というわけです。

ちなみに、複数の構成資産をひとつの世界遺産として登録する「シリアルノミネーション」の場合、構成資産の「選択」も完全性の観点で重要になりますね。どれとどれで構成されていれば、その価値を表現できるか?というのはなかなか難しい課題です。




●自然遺産の完全性

続いて、自然遺産の完全性についてです。同様に「登録範囲」から考えてみます。

たとえば、日本の世界遺産「知床」の登録範囲がこちら。


▲知床(日本,2005年,登録基準:(ⅸ)(ⅹ)WHC


▲知床の登録範囲

知床半島周辺の「海域」も世界遺産の登録範囲(バッファーゾーン)になっています。
これは、知床の自然環境を思い浮かべればおわかりいただけるでしょうね。このイラストの通り海と山は切り離せない関係にあります。

※参考:水産庁


似たような事例で、クロアチアの世界遺産「プリトヴィツェ湖群国立公園」


▲プリトヴィツェ湖群国立公園(クロアチア,1979年,登録基準:(ⅶ)(ⅷ)(ⅸ)WHC



美しい「川と湖」は登録範囲のごく一部。この景観を作り出している・隣接する環境が登録範囲に含まれるとともに、国立公園としての管理下にあるわけです。


世界遺産を推薦していく側からいえば、「完全性を証明できる登録範囲」を設定しなければならないということになります。






●補足:世界遺産条約履行のための作業指針

最後に参考情報です。

真正性・完全性の厳密な定義は「世界遺産条約履行のための作業指針(The Operational Guidelines for the Implementation of the World Heritage Convention)に記載されていますので、該当箇所を引用しておきます。


真正性(Authenticity)
Para条文対象
79登録基準(i)から(vi) に基づいて推薦される資産は真正性(オーセンティシティ) の条件を満たすことが求められる。オーセンティシティに関する奈良ドキュメントを含む付属資料4には、資産の真正性を検証するための実践的な原則が示されている。以下にその要約を示す。(ⅰ)~(ⅵ)
80遺産が備えている価値を理解できる程度は、この価値に関する情報源がどの程度の信用性、真実性を有すると考えられるかに依存する。文化遺産の本来の特質と後年の変化に関連してその情報源を知り理解することは、真正性に係るあらゆる側面を評価する上での要件である。(ⅰ)~(ⅵ)
81文化遺産が備えている価値についての判断は、関連する情報源の信用性と同様に、文化ごとに異なる場合があるほか、単一の文化内においてさえ異なることが間がえられる。全ての文化は等しく尊重されるべきであることから、文化遺産の検討、判断は、第一義的には自身の文化的文脈において行われなければならない。(ⅰ)~(ⅵ)
82文化遺産の種類、その文化的文脈によって一様ではないが、資産の文化的価値(登録推薦の根拠として提示される価値基準)が、下に示すような多様な属性における表現において真実かつ信用性を有する場合に、真正性の条件を満たしていると考えられ得る。
形状、意匠
材料、材質
用途、機能
伝統、技能、管理体制
位置、セッティング
言語その他の無形遺産
精神、感性
その他の内部要素、外部要素
(ⅰ)~(ⅵ)
83精神や感性といった属性を、実際に真正性の条件として適用するのは容易ではないが、それでもなお、それらは、例えば伝統や文化的連続性を維持しているコミュニティにおいては、その土地の特徴や土地感を示す重要な指標である。(ⅰ)~(ⅵ)
84これらの情報源をすべて利用すれば、文化遺産の芸術的側面、歴史的側面、社会的側面、科学的側面について詳細に検討することが可能となる。「情報源」は、文化遺産の本質、特異性、意味及び歴史を知ることを可能にする物理的存在、文書、口述、表象的存在のすべてと定義される。(ⅰ)~(ⅵ)
85資産の登録推薦書を作成するなかで真正性の条件を考慮する場合は、締約国は、まず最初に、該当する重要な真正性の属性をすべて特定する必要がある。真正性の宣言において、これらの重要な属性のひとつひとつにどの程度の真正性があるか又は表現されているかを評価すること。(ⅰ)~(ⅵ)
86真正性に関し、考古学的遺跡や歴史的建造物・歴史的地区を再建することが正当化されるのは、例外的な場合に限られる。再建は、完全かつ詳細な資料に基づいて行われた場合のみ許容され得るものであり、憶測の余地があってはならない(ⅰ)~(ⅵ)
※出所:The Operational Guidelines for the Implementation of the World Heritage Convention(2013).pdf
※日本語訳:文化庁




完全性(Integrity)
Para条文対象
87世界遺産一覧表に登録推薦される資産は全て、完全性の条件を満たすことが求めらる。(ⅰ)~(ⅹ)
88完全性は、自然遺産及び/又は文化遺産とそれらの特質のすべてが無傷で包含されている度合いを測るためのものさしである。従って、完全性の条件を調べるためには、当該資産が以下の条件をどの程度満たしているかを評価する必要がある。
a) 顕著な普遍的価値が発揮されるのに必要な要素がすべて含まれているか。
b) 当該資産の重要性を示す特徴を不足なく代表するために適切な大きさが確保されているか。
c) 開発及び/又は管理放棄による負の影響を受けているか。
以上について、完全性の宣言において説明を行うこと。
(ⅰ)~(ⅹ)
89登録価値基準(i)から(vi) までに基づいて登録推薦される資産は、資産の物理的構造及び/又は重大な特徴が良好な状態であり、劣化の進行による影響がコントロールされていること。また、資産が有する価値の総体を現すのに必要な要素が、相当の割合包含されていること。文化的景観及び歴史的町並みその他の生きた資産については、これらの独自性を特徴づけているや動的な機能が維持されていること。(ⅰ)~(ⅵ)
90登録価値基準(vii)から(x) までに基づいて登録推薦される資産は、全て、生物物理学的な過程及び地形上の特徴が比較的無傷であること。しかしながら、いかなる場所も完全な原生地域ではなく、自然地域は全て動的なものであり、ある程度人間との関わりが介在することが知られている。伝統的社会や地域のコミュニティーを含めて、人間活動はしばしば自然地域内で行われる。そのような活動も、生態学的に持続可能なものであれば、当該地域の顕著な普遍的価値と両立し得る。(ⅶ)~(ⅹ)
91以上に加えて、登録価値基準(vii)から(x) に基づいて登録推薦される資産は、各基準毎に完全性の条件が定義されている。(ⅶ)~(ⅹ)
92登録価値基準(vii) に基づいて登録推薦される資産は、顕著な普遍的価値を有すると同時に、資産の美しさを維持するために不可欠な範囲を包含していること。例えば、滝を中心とする風景の場合、資産の美的価値に一体的に結びついた隣接集水域及び下流域を包含していれば、完全性の条件を満たす可能性がある。(ⅶ)
93登録価値基準(viii) に基づいて登録推薦される資産は、関連する自然科学的関係において相互に関連し依存した鍵となる要素の全て又は大部分を包含していること。例えば、「氷河時代」の地域であれば、雪原、氷河そのもの及び氷食形状、堆積、棲みつきのサンプル(例えば、条線、モレーン、植物遷移の初期段階等)を包含していれば、完全性の条件を満たす可能性がある。また、火山の場合は、溶岩起源鉱物の完全な変形シリーズが残っており、噴出岩の種類や噴火の種類の全て又は大部分が代表されていれば、完全性の条件を満たす可能性がある。(ⅷ)
94登録価値基準(ix) に基づいて登録推薦される資産は、生態系及びそこに含まれる生物多様性を長期的に保全するために不可欠なプロセスの鍵となる側面を現すために十分な大きさをもち、必要な要素を包含すること。例えば、熱帯雨林地域は、ある程度の標高変化、地形・土壌型の変化があり、パッチの系及びパッチの自然再生が見られれば、完全性の条件を満たす可能性がある。同様に、サンゴ礁であれば、例えば、海草やマングローブ、又はサンゴ礁への栄養塩や堆積物の流入を制御するその他近隣生態系を包含すれば、完全性の条件を満たす可能性がある。(ⅸ)
95登録価値基準(x) に基づいて登録推薦される資産は、生物多様性の保全にとって最も重要な存在であること。生物学的に見て、最も多様性・代表性の高い資産のみがこの基準を満たし得ると考えられる。関係する生物地理区、生態系の特徴を示す動植物相の多様性を最大限維持するための生息環境を包含していることが求められる。例えば、熱帯サバンナの場合であれば、共進化した草食動物と植物の組み合わせが完全に残っていれば、完全性を満たす可能性がある。また、島嶼生態系の場合であれば、固有の生物相を維持するための生息環境を包含すべきである。広い生息域をもつ種を含む場合は、当該種の生存可能個体群サイズを確保するために不可欠な生息環境を包含するのに十分な大きさを確保すべきである。さらに、渡りの習性をもつ生物種を含む地域の場合は、繁殖地、営巣地、判明している渡りのルートが適切に保護されていることが求められる。(ⅹ)
※出所:The Operational Guidelines for the Implementation of the World Heritage Convention(2013).pdf
※日本語訳:文化庁




●関連記事
 世界遺産の登録基準とは?
 危機遺産の本質について
 世界遺産のトレンド「5C」





2015年の危機遺産一覧:第39回世界遺産委員会決議事項(1)

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現在開会中の第39回世界遺産委員会ですが、現時点の決議事項についてまとめておきます。

世界遺産の保全状況の審議の結果、1件の世界遺産が危機遺産の指定を「解除」され、3件の世界遺産が「危機遺産に指定」されました。


世界遺産委員会のライブビューイングの仕方についてはこちら






■第39回世界遺産委員会決議事項①

●世界遺産に関する「ボン宣言」

第39回世界遺産委員会の冒頭、ユネスコ事務局長同席のもと議長国ドイツから「ボン宣言」採択の提案があり、全会一致で採択されました。内容は以下の通りです。
(かなり強いメッセージが込められています)


・世界遺産への度重なる武力攻撃や破壊行為・テロ行為を強く非難する。
・特にアフガニスタン・イラク・リビア・マリ・シリア・イエメンをはじめとする中東地域は深刻である。
・軍事的な破壊、地震などの自然災害による破壊から、文化遺産・自然遺産を保護していくため、各国の協力を要請する。
※原文はこちら(The Bonn Declaration on World Heritage)




▲世界遺産委員会でのボン宣言審議の様子。(2015/6/29)




●危機遺産の指定解除

1件の危機遺産指定が「解除」されました。
コロンビア政府の努力と国際的な協力関係を生かした素晴らしい事例として、会議場では大きな拍手が起きました。

危機遺産とは何か?についてはこちら


ロス・カティオス国立公園
Los Katios National Park

コロンビア 登録年:1994年 危機遺産:2009年~2015年【解除】 登録基準:(ⅸ)(ⅹ)

ロス・カティオス国立公園は、コロンビア北西部チョコ平原に広がる熱帯雨林の国立公園です。パナマの世界遺産「ダリエン国立公園」と隣接しており、中米と南米の境界にあたる多様な生態系が混在しているのが特徴です。
広大な国立公園内では不法伐採やアトラト川での不法な漁業などが横行していたことから、2009年に危機遺産に指定されました。その後コロンビア政府の努力と国際的な支援により、これらが激減したことを受け、2015年危機遺産の指定が解除されました。
※詳細はこちら(WHC)
※2015年の危機遺産指定解除についてはこちら(WHC)




●危機遺産の指定

3件の世界遺産が「危機遺産」の指定を受けました。
ボン宣言の内容をそのまま反映した決議となりました。



円形都市ハトラ
Hatra

イラク 登録年:1985年 危機遺産:2015年【指定】 登録基準:(ⅱ)(ⅲ)(ⅳ)(ⅵ)

ハトラはイラク北部モスル南西約100kmの荒野に位置し、2~3世紀パルティア王国の軍事基地として、商業・軍事・宗教の中心地として繁栄しました。城壁に囲まれた円形都市で、町の中央には石柱に支えられた巨大な聖域が築かれ、多くのイーワーン式の建築物が残っています。
2015年3月イスラム過激派組織「イスラム国(Islamic State)」によって遺跡が破壊されたことを受け、2015年の世界遺産委員会で危機遺産に指定されました。
※詳細はこちら(WHC)
※2015年の危機遺産指定についてはこちら(WHC)


サナアの旧市街
Old City of Sana'a

イエメン 登録年:1986年 危機遺産:2015年【指定】 登録基準:(ⅳ)(ⅴ)(ⅵ)

イエメンの首都サナアの旧市街は、サナア中心部のターヒル広場の東に位置します。100以上のモスクと64のミナレットがあり、城壁のイエメン門が旧市街への入り口となっています。林立する塔状建造物は、5~8階建ての日干し煉瓦でできた住居群です。これらの街並みは中世アラビアの面影を今に伝えています。
イエメンは2015年3月以降、ハディ政権とイスラム教シーア派武装組織フーシとの戦闘が激化。サウジアラビアが主導する連合軍による空爆が続いており、2015年6月には旧市街も空爆の被害にあいました。
このことを受け、2015年の世界遺産委員会では、武力紛争による破壊と管理不全を理由に、危機遺産への指定が採択されました。
※詳細はこちら(WHC)


城壁都市シバーム
Old Walled City of Shibam

イエメン 登録年:1982年 危機遺産:2015年【指定】 登録基準:(ⅲ)(ⅳ)(ⅴ)

シバームはアラビア半島最南部イエメン内陸にあるスルタンの城郭都市です。古くから交易拠点として栄え、日干しレンガの高層家屋が密集する独特の都市景観が特徴的です。この都市は西暦300年ごろから築かれましたが、現存する最古の建物は、10世紀ごろに建造された「金曜モスク」。ワジとよばれる雨季の雨水が流れる川のそばに位置することから、たびたび洪水の被害をうけてきました。
サナア同様に、激化する紛争による管理不全を理由に、2015年の世界遺産委員会にて危機遺産に指定されました。
※詳細はこちら(WHC)




●武力紛争による世界遺産への被害

参考までに、ここ数か月の武力紛争による被害について、記事をまとめておきます。


シリア・イラク

世界遺産ハトラ遺跡爆破=「イスラム国」の破壊止まらず-イラク
イラクからの報道によると、過激派組織「イスラム国」は7日、イラク北部モスルの郊外にある国連教育科学文化機関(ユネスコ)認定の世界遺産ハトラ遺跡で爆破を始めた。同組織はモスル一帯で、文化遺産の破壊を繰り返している。貴重な歴史的文化財が次々に失われており、イラクのシェルシャブ観光・遺跡相は8日、「空域はイラクの人々の手中にない。支援を要請する」と述べ、米国主導の空爆作戦で破壊を防ぐよう呼び掛けた。(略)
時事通信(2015/03/08)

イスラム国が公開した破壊行為の動画


「イスラム国」世界遺産パルミラに地雷仕掛ける
英拠点の民間団体「シリア人権監視団」は21日、イスラム過激派組織「イスラム国」がシリア中部の古代都市遺跡パルミラに地雷や爆弾を仕掛けたと明らかにした。
パルミラは国連教育・科学・文化機関(ユネスコ)に登録された世界遺産。現時点では、爆破準備なのか、シリア・アサド政権の政府軍の進攻を阻止する策なのかどうかは不明という。(略)
読売新聞(2015/06/22)

※シリア・イラク情勢の最新情報についてはこちらのWebsiteをどうぞ。Syrian Observatory for Human Rights(英;シリア人権監視団)


イエメン

サウジ主導の連合軍、世界遺産のサヌア旧市街を空爆 イエメン

エメンの首都サヌア(Sanaa)で12日未明、国連教育科学文化機関(UNESCO、ユネスコ)の世界遺産に登録されている旧市街が、サウジアラビア主導の連合軍による空爆を受け、5人が死亡、住宅3棟が破壊された。(略)
AFP(2015/06/12)






■危機遺産のトレンド

今年の世界遺産委員会での決議をふまえ、近年の危機遺産のトレンドについてまとめておきます。

危機遺産は「ペナルティー」ではないという話はこちら


●危機遺産の増減

2010年2011年2012年2013年2014年2015年
危機リストへの記載425733
危機リストから除外112111
危機リストの増減+3+1+3+6+2+2
危機リスト記載件数343538444648

※危機遺産になっている「ニンバ山厳正自然公園」(1992年危機リスト記載)はコートジボワールとギニアの二カ国にわたりますが、上記の危機遺産の件数としては1件としてカウントしています。
詳細はこちら(UNESCO WHC) 




●近年、危機遺産になった物件

危機遺産に指定された物件(危機リストへの記載)
遺産名国名登録危機危機の主な原因
カスビのブガンダ王国歴代国王の墓ウガンダ2001年2010年火災による甚大な被害。
バグラティ大聖堂とゲラティ修道院グルジア1994年2010年近隣の再開発プロジェクト。
アツィナナナの熱帯雨林マダガスカル2007年2010年違法な森林伐採。
エバーグレーズ国立公園アメリカ1979年2010年住宅地開発による地盤低下。
リオ・プラタノ生態系保護区ホンジュラス2007年2011年不法伐採、密漁・不法占拠・密猟。
スマトラの熱帯雨林遺産インドネシア2004年2011年密猟・不法伐採・農地開発。道路建設計画。
リヴァプール海商都市英国2004年2012年大規模な都市開発計画。
パナマのカリブ海側の要塞群パナマ1980年2012年遺構の劣化。管理計画不備。
伝説の都市トンブクトゥマリ1988年2012年武力衝突による保全不能。
アスキア墳墓マリ2004年2012年武力衝突による保全不能。
イエス生誕の地パレスチナ2012年2012年保全状態の悪化。観光圧力。管理計画不備。
東レンネルソロモン諸島1998年2013年世界遺産周辺の伐採。
ダマスカス旧市街シリア1979年2013年内戦による保全の危機。
隊商都市ボスラシリア1980年2013年内戦による保全の危機。
古代都市パルミラシリア1980年2013年内戦による保全の危機。
アレッポの旧市街シリア1986年2013年内戦による損傷と保全の危機。
クラック・デ・シュヴァリエとカラット・サラーフ・アッディーンシリア2006年2013年内戦による保全の危機。
シリア北部の古代集落シリア2011年2013年
オリーブとブドウの地:エルサレムの南部バティールの文化的景観パレスチナ2014年2014年イスラエル国境付近の分離壁建設計画
ポトシの市街ボリビア1987年2014年無計画な採掘行為。
セルー動物保護区タンザニア1987年2014年密猟による野生生物の減少。
円形都市ハトライラク1985年2015年武力紛争による破壊・管理不全。
城壁都市シバームイエメン1982年2015年武力紛争による管理不全。
サナアの旧市街イエメン1986年2015年武力紛争による破壊・管理不全。





●近年、危機遺産の指定を解除された物件

危機遺産から除外された物件(危機リストからの除外)
遺産名国名登録危機解除危機遺産解除の主な理由
ガラパゴス諸島エクアドル1978年2007年2010年外来種抑制・管理計画の徹底など。
マナス野生動物保護区インド1985年1992年2011年民族対立の改善・管理計画の徹底など。
ラホール城とシャーラマール庭園区パキスタン1981年2000年2012年保全状態・周辺環境の改善、管理計画の徹底など。
コルディリェーラ山脈の棚田フィリピン1995年2001年2012年景観の保全状態の改善・十分な管理計画の遂行など。
バムとその文化的景観イラン2004年2004年2013年管理・保全状態の改善。一部資産の修復・固定など。
キルワ・キシワニとソンゴ・ムナラの遺跡タンザニア1981年2004年2014年遺跡の浸食に対する保全計画の改善。
ロス・カティオス国立公園コロンビア1994年2009年2015年不法伐採・密漁・密漁等に対する政府の管理強化・改善。






世界遺産委員会の主な審議は、7月5日(日)18:30(日本時間:25:30)まで続きます。

新しい世界遺産の登録についての審議は、本日深夜から土日にかけてです。


以上、取り急ぎ、速報でした。








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危機遺産の一覧(2015年度)

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第39回世界遺産委員会(2015年、ドイツ・ボン)での決議をふまえ、

現在危機遺産に指定されている物件の一覧表をご紹介しておきます。

48件の世界遺産が「危機遺産」の指定を受けています。





■危機遺産(危機に瀕する世界遺産の一覧表)2015年度版
List of World Heritage in Danger


No名称国名区分登録指定備考
1エルサレムの旧市街とその城壁群エルサレム(ヨルダンの推薦)C1981年1982年
2チャンチャンの考古地区ペルーN1986年1986年
3ニンバ山厳正自然保護区コートジボワール・ギニアN1981年1992年
4アイールとテネレの自然保護区ニジェールC1991年1992年
5ヴィルンガ国立公園コンゴ民主共和国N1979年1994年
6シミエン国立公園エチオピアN1978年1996年
7ガランバ国立公園コンゴ民主共和国C1980年1996年1984年
~1992年
8カフジ・ビエガ国立公園コンゴ民主共和国C1980年1997年
9マノボ - グンダ・サン・フローリス国立公園中央アフリカC1988年1997年
10オカピ野生動物保護区コンゴ民主共和国N1996年1997年
11サロンガ国立公園コンゴ民主共和国C1984年1999年
12ザビードの歴史地区イエメンC1993年2000年
13聖都アブー・メナーエジプトC1979年2001年
14ジャームのミナレットと考古遺跡群アフガニスタンN2002年2002年
15バーミヤン渓谷の文化的景観と古代遺跡群アフガニスタンC2003年2003年
16コモエ国立公園コートジボワールC1983年2003年
17アッシュル(カラット・シェルカット)イラクN2003年2003年
18コロとその港ベネズエラC1993年2005年
19ハンバーストーンとサンタ・ラウラの硝石工場跡チリM2005年2005年
20コソヴォの中世建造物群セルビアC2004年2006年
21ニョコロ・コバ国立公園セネガルC1981年2007年
22古代都市サーマッラーイラクC2007年2007年
23ムツヘタの歴史的建造物群グルジアN1994年2009年
24ベリーズ・バリア・リーフ自然保護区ベリーズM1996年2009年
25エヴァーグレーズ国立公園アメリカC1979年2010年1993年
~2007年
26バグラティ大聖堂とゲラティ修道院グルジアC1994年2010年
27カスビのブガンダ王国の王墓ウガンダC2001年2010年
28アツィナナナの熱帯雨林マダガスカルC2007年2010年
29リオ・プラタノ生物圏保護地域ホンジュラスC1982年2011年1996年
~2007年
30スマトラの熱帯雨林遺産インドネシアC2004年2011年
31伝説の都市トンブクトゥマリC1988年2012年1990年
~2005年
32パナマのカリブ海側の要塞群パナマC1980年2012年
33アスキア墳墓マリC2004年2012年
34リヴァプール海商都市英国C2004年2012年
35イエス生誕の地:ベツレヘムの聖誕教会と巡礼路パレスチナC2012年2012年
36ダマスカスの旧市街シリアC1979年2013年
37アレッポの旧市街シリアN1986年2013年
38隊商都市ボスラシリアC1980年2013年
39古代都市パルミラシリアC1980年2013年
40東レンネルソロモン諸島C1998年2013年
41クラック・デ・シュヴァリエとカラット・サラーフ・アッディーンシリアC2006年2013年
42シリア北部の古代集落シリアC2011年2013年
43セルー動物保護区タンザニアC1982年2014年
44ポトシの市街ボリビアN1987年2014年
45オリーヴとワインの土地-バティールの丘:南エルサレムの文化的景観パレスチナC2014年2014年
46円形都市ハトライラクC1985年2015年
47城壁都市シバームイエメンC1982年2015年
48サナアの旧市街イエメンC1986年2015年

※C:文化遺産、N:自然遺産、M:複合遺産
※備考は過去に危機遺産に指定されていた期間。
※出所:UNESCO World Heritage Centre






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【速報】2015年に登録された世界遺産①:第39回世界遺産委員会決議事項(2)

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第39回世界遺産委員会の決議事項の速報です。

7月3日(金)の審議の結果、4件の新しい世界遺産が誕生しました!





■【速報】2015年に登録された世界遺産①:第39回世界遺産委員会

7月3日の審議で、1件の複合遺産、3件の世界遺産が登録されました。
ジャマイカ初の世界遺産が誕生しています。



●2015年に登録された世界遺産① (2015/07/03)

No名称名称(仮訳)国名区分登録基準
1Blue and John Crow Mountainsブルー・アンド・ジョン・クロウ・マウンテンズジャマイカM(ⅲ)(ⅵ)(ⅹ)
2Arab-Norman Palermo and the Cathedral Churches of Cefalu and Monrealeパレルモのアラブ=ノルマン様式建造物群およびチェファル大聖堂、モンレアーレ大聖堂イタリアC(ⅱ)(ⅳ)
3Baptism Site “Bethany Beyond the Jordan” (Al-Maghtas)イエス・キリスト洗礼の地「ヨルダン川対岸のベタニア」(アル・マグタス)ヨルダンC(ⅲ)(ⅳ)(ⅵ)
4Rock Art in the Hail Region of Saudi Arabiaサウジアラビアのハーイル地方の岩絵サウジアラビアC(ⅰ)(ⅲ)

※C:文化遺産、N:自然遺産、M:複合遺産
※登録基準の詳細はこちら
※出所:UNESCO World Heritage Centre プレスリリース① プレスリリース②




Blue and John Crow Mountains
ブルー・アンド・ジョン・クロウ・マウンテンズ

ジャマイカ 登録年:2015年 登録基準:(ⅲ)(ⅵ)(ⅹ)



ブルー・アンド・ジョン・クロウ・マウンテンは、ジャマイカ東部に位置しジャマイカ島の約20%もの面積を占める熱帯山地林が広がる国立公園です。標高は850mから2,256mに至り、高度に応じて多様な生態系を有しており、地衣類やコケ類などをはじめとした固有種のすみかでもあります。また、植民地時代この森林は逃亡したアフリカ系奴隷(Maroon)が独自のコミュニティーを形成してきたことでも知られており、山との霊的なつながりなどをもとにした独特の信仰や伝統を生み出した場所でもあります。自然と文化両方の登録基準を満たす複合遺産として登録されました。
※詳細はこちら(WHC)




Arab-Norman Palermo and the Cathedral Churches of Cefalu and Monreale
パレルモのアラブ=ノルマン様式建造物群およびチェファル大聖堂、モンレアーレ大聖堂

イタリア 登録年:2015年 登録基準:(ⅱ)(ⅳ)



この遺産はシチリア島北部に位置し、シチリア・ノルマン王朝時代(1130年~1194年)の9つの歴史的建造物群(2つの宮殿・3つの教会・聖堂・橋、そしてチェファル大聖堂、モンレアーレ大聖堂)で構成されています。これらの建造物は、空間設計・構造・装飾の点で、シチリアにおけるヨーロッパ・イスラム・ビザンツの社会的・文化的な融合を示す貴重な事例であり、多様な出自の人々と様々な宗教が、この地において共存していたことを今に伝えています。
※詳細はこちら(WHC)




Baptism Site “Bethany Beyond the Jordan” (Al-Maghtas)
イエス・キリスト洗礼の地「ヨルダン川対岸のベタニア」(アル・マグタス)

ヨルダン 登録年:2015年 登録基準:(ⅲ)(ⅳ)(ⅵ)



死海の北9km、ヨルダン川東岸に位置するこの考古遺跡は、テル・アル・カラル(聖エリヤの丘)とヨルダン川近くの洗礼者ヨハネ教会の2つのエリアで構成されています。この地は、ナザレのイエスが洗礼者ヨハネにより洗礼を受けた場所として信仰されており、ローマ時代・ビザンツ時代の遺構が特長です。教会や礼拝堂・修道院・隠遁生活のための洞窟・洗礼が行われたとされる水場が残っており、この地の宗教的な性格を現在に伝えるとともに、今日もキリスト教徒の巡礼地となっています。
※詳細はこちら(WHC)




Rock Art in the Hail Region of Saudi Arabia
サウジアラビアのハーイル地方の岩絵

サウジアラビア 登録年:2015年 登録基準:(ⅰ)(ⅲ)



サウジアラビアのハーイル地方の岩絵は、サウジアラビア中北部、ネフド砂漠にあるジュッバ(Jubbah)とシュワイミス(Shuwaymis)の岩絵群で構成されています。ジュッバの丘は、かつてはふもとに湖をたたえ、ネフド砂漠南部の人々や動物の水源となっていた場所です。その岩肌には当時の人々のつくった多数の岩絵や碑文が残っています。シュワイミスには、かつてワジ(雨季の川)があった岩の急斜面に、1万年前からの人類や動物の岩絵が無数に残っています。
※詳細はこちら(WHC)






●登録変更に関する審議

また、以下2件の世界遺産について、登録内容の変更が認められました。
登録範囲の変更と、登録基準の追加です。



Cape Floral Region Protected Areas
ケープ植物区保護地域群

南アフリカ 登録年:2004年 登録基準:(ⅸ)(ⅹ)

登録済みの8つの保護区から5つの保護区を追加し、全体で553,000ha→1,094,741haのコアエリアと周辺のバッファーゾーンに拡大されました。面積としては2倍近くになるほどです。(登録済みの保護区の範囲拡大も含まれます)
詳細はこちら(WHC)
※出所:UNESCO World Heritage Centre



Phong Nha - Ke Bang National Park
フォンニャ=ケバン国立公園

ベトナム 登録年:2003年 登録基準:(ⅷ)+(ⅸ)(ⅹ)

登録基準:(ⅸ)(ⅹ)の追加が承認されました。2003年の登録当初からこの国立公園内の貴重な生態系が世界遺産の登録基準(ⅸ)(ⅹ)に合致する可能性が議論されてきましたが、保全体制の不備などを理由に見送られてきました。2013年に国立公園の範囲が拡大されるなど、保全体制の強化が推進され今回の決議に至っています。
詳細はこちら(WHC)
※出所:UNESCO World Heritage Centre






以上、取り急ぎ、速報です。

7月4日(土)・5日(日)にさらに新しい世界遺産が誕生する予定です。



世界遺産委員会のライブビューイングについてはこちら
以下の時間帯に世界遺産の登録審議が行われます。

 7月4日(土) 9:30~13:00(日本時間 16:30~20:00)
 7月4日(土) 15:00~18:30(日本時間 22:00~25:30)
 7月5日(日) 9:30~13:00(日本時間 16:30~20:00)
 7月5日(日) 15:00~18:30(日本時間 22:00~25:30)





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【速報】2015年に登録された世界遺産②:第39回世界遺産委員会決議事項(3)

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第39回世界遺産委員会の決議事項の速報です。

7月4日(土)の審議の結果、さらに11件の新しい世界遺産が誕生しました!


この記事の前日に登録された世界遺産はこちら

なお、気になる日本の世界遺産候補「明治日本の産業革命遺産」の審議は、7月5日(日)15:00(日本時間 22:00)に開始される予定です。




■【速報】2015年に登録された世界遺産②:第39回世界遺産委員会


●2015年に登録された世界遺産② (2015/07/04)

No名称名称(仮訳)国名区分登録基準
1Blue and John Crow Mountainsブルー・アンド・ジョン・クロウ・マウンテンズジャマイカM(ⅲ)(ⅵ)(ⅹ)
2Arab-Norman Palermo and the Cathedral Churches of Cefalu and Monrealeパレルモのアラブ=ノルマン様式建造物群およびチェファル大聖堂、モンレアーレ大聖堂イタリアC(ⅱ)(ⅳ)
3Baptism Site “Bethany Beyond the Jordan” (Al-Maghtas)イエス・キリスト洗礼の地「ヨルダン川対岸のベタニア」(アル・マグタス)ヨルダンC(ⅲ)(ⅳ)(ⅵ)
4Rock Art in the Hail Region of Saudi Arabiaサウジアラビアのハーイル地方の岩絵サウジアラビアC(ⅰ)(ⅲ)
5Tusi Sites土司の遺跡群中国C(ⅱ)(ⅲ)
6SusaスーサイランC(ⅰ)(ⅱ)(ⅲ)(ⅳ)
7Cultural Landscape of Maymandマイマンドの文化的景観イランC(ⅴ)
8Singapore Botanic Gardensシンガポール植物園<シンガポールC(ⅱ)(ⅳ)
9Baekje Historic Areas百済の歴史地区韓国C(ⅱ)(ⅲ)
10Great Burkhan Khaldun Mountain and its surrounding sacred landscapeブルカン・カルドゥン山と周辺の神聖景観モンゴルC(ⅳ)(ⅵ)
11Christiansfeld, a Moravian Church Settlementモラヴィア兄弟団の入植地クリスチャンスフェルドデンマークC(ⅲ)(ⅳ)
12The Par Force hunting landscape in North Zealandシェラン島北部のパル・フォルス式狩猟の景観デンマークC(ⅱ)(ⅳ)
13Climats, terroirs of Burgundyブルゴーニュ地方のブドウ栽培の風土フランスC(ⅲ)(ⅴ)
14Champagne Hillsides, Houses and Cellarsシャンパーニュの丘陵・家屋・地下貯蔵庫群フランスC(ⅲ)(ⅳ)(ⅵ)
15Diyarbakır Fortress and Hevsel Gardens Cultural Landscapeディヤルバクルの城塞とへヴセル庭園の文化的景観トルコC(ⅳ)(ⅵ)

灰色:2015年7月3日の審議で登録された世界遺産。
※C:文化遺産、N:自然遺産、M:複合遺産
※登録基準の詳細はこちら
※出所:UNESCO World Heritage Centre プレスリリース①




Tusi Sites
土司の遺跡群

中国 登録年:2015年 登録基準:(ⅱ)(ⅲ)



中国南西部の山岳部周辺には、13世紀から20世紀初頭にかけて歴代王朝から「土司」として任命された首長が支配したことを伝える遺構が残っています。紀元前3世紀に始まった地方統治制度である土司制度は、歴代王朝による国家統一を目的としたものであると同時に、地方の少数民族に対して独自の習慣・風俗を維持することを許容する制度でした。土司の遺跡群は、老司城(Laosicheng)・唐崖(Tangya)・海龙屯要塞(Hailongtun Fortress)の3つで構成され、これらは、土司制度での統治を今伝える類まれな証拠となるものです。
※詳細はこちら(WHC)




Susa
スーサ

イラン 登録年:2015年 登録基準:(ⅰ)(ⅱ)(ⅲ)(ⅳ)



スーサはイラン南西部ザグロブ山脈のふもとに位置し、紀元前5,000年~13世紀にかけての都市遺跡が重なっており、様々な時代の行政建築物・住居・宮殿等が発掘されています。これらの考古遺跡群は、エラムやペルシア、パルティアの文化的伝統を伝える類まれな証拠となるものです。
※詳細はこちら(WHC)




Cultural Landscape of Maymand
マイマンドの文化的景観

イラン 登録年:2015年 登録基準:(ⅴ)



マイマンドは、イラン中部の山脈南端の渓谷、乾燥地帯に位置する自給自足の村落です。村民は農業も営む遊牧民で、春から秋は山の上の住居で家畜を放牧し、冬の数か月間は渓谷にある岩をくりぬいた砂漠地帯独特の住居で生活します。この文化的景観は広範囲に広がっていたもので、家畜ではなく人々が移動するという、独特の生活様式の事例といえます。
※詳細はこちら(WHC)




Singapore Botanic Gardens
シンガポール植物園

シンガポール 登録年:2015年 登録基準:(ⅱ)(ⅳ)
 
シンガポール植物園はシンガポール中心部に位置し、イギリス植民地時代の熱帯植物園から、植物の保全・教育の観点で近代的かつ世界最高水準の科学機関へと発展してきたことを今に伝えています。植栽や建造物の装飾には、設立された1859年以降の歴史を感じさせる様々な特徴がある文化的景観を呈しています。この植物園は科学・研究・植物保存の点で非常に重要な施設であり、特に1875年から東南アジアで進められたゴムのプランテーションとは深いつながりがあります。
※詳細はこちら(WHC)




Baekje Historic Areas
百済の歴史地区

韓国 登録年:2015年 登録基準:(ⅱ)(ⅲ)



百済の歴史地区は、韓国中西部の山地に位置する、475年~660年にかけての考古遺跡群です。公山城・宋山里古墳群・扶餘郡の官北里遺跡・扶蘇山城・陵山里古墳群・定林寺址・扶餘羅城・全羅北道益山市の王宮里遺跡、弥勒寺址で構成されています。これらの遺跡群は、紀元前18年から紀元660年までの時代に朝鮮半島で興った3つの王朝のひとつである、百済王朝後期を代表するものであり、古代の朝鮮・中国・日本の間の技術的・宗教的・文化的・芸術的な交流の「交差路」でもあったことの証拠となるものです。
※詳細はこちら(WHC)




Great Burkhan Khaldun Mountain and its surrounding sacred landscape
ブルカン・カルドゥン山と周辺の神聖景観

モンゴル 登録年:2015年 登録基準:(ⅳ)(ⅵ)



ブルカン・カルドゥン山と周辺の神聖景観は、モンゴル北東部・ヘンティー山脈中央、中央アジアのステップ(大草原)と、シベリア・タイガ気候の針葉樹林の境界に位置します。ブルカン・カルドゥンの景観は、神聖な山や川・オーヴォ(石塚)への崇拝と関連があり、古代のシャーマニズムと仏教の儀式が融合した儀式が行われます。またこの地域は、チンギスハンの生誕地・墓地であると信じられており、彼が山岳信仰によってモンゴル人の精神的な統一を図ったことを伝えています。
※詳細はこちら(WHC)




Christiansfeld, a Moravian Church Settlement
モラヴィア兄弟団の入植地クリスチャンスフェルド

デンマーク 登録年:2015年 登録基準:(ⅲ)(ⅳ)



※詳細はこちら(WHC)




The Par Force hunting landscape in North Zealand
シェラン島北部のパル・フォルス式狩猟の景観

デンマーク 登録年:2015年 登録基準:(ⅱ)(ⅳ)



※詳細はこちら(WHC)




Climats, terroirs of Burgundy
ブルゴーニュ地方のブドウ栽培の風土

フランス 登録年:2015年 登録基準:(ⅲ)(ⅴ)



※詳細はこちら(WHC)




Champagne Hillsides, Houses and Cellars
シャンパーニュの丘陵・家屋・地下貯蔵庫群

フランス 登録年:2015年 登録基準:(ⅲ)(ⅳ)(ⅵ)



※詳細はこちら(WHC)




Diyarbakır Fortress and Hevsel Gardens Cultural Landscape
ディヤルバクルの城塞とへヴセル庭園の文化的景観

トルコ 登録年:2015年 登録基準:(ⅳ)(ⅵ)



※詳細はこちら(WHC)






以上、取り急ぎ、速報です。

7月5日(日)も、さらに新しい世界遺産が誕生する予定です。



世界遺産委員会のライブビューイングについてはこちら
以下の時間帯に世界遺産の登録審議が行われます。

 7月5日(日) 9:30~13:00(日本時間 16:30~20:00)
 7月5日(日) 15:00~18:30(日本時間 22:00~25:30)←明治日本の産業革命遺産の審議




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【速報】2015年に登録された世界遺産③:第39回世界遺産委員会決議事項(4)

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第39回世界遺産委員会の決議事項の速報です。

7月5日(日)午前の審議の結果、さらに5件の新しい世界遺産が誕生しました!

今年登録された新しい世界遺産は、合計で20件となりました。登録審議はさらに続きます。


日本の世界遺産候補「明治日本の産業革命遺産」の審議は、7月5日(日)15:00(日本時間 22:00)に開始される予定です。

 2015年に登録された世界遺産 (2015/07/03)
 2015年に登録された世界遺産 (2015/07/04)





■【速報】2015年に登録された世界遺産③:第39回世界遺産委員会


●2015年に登録された世界遺産③ (2015/07/05 AM)

No名称名称(仮訳)国名区分登録基準
1Blue and John Crow Mountainsブルー・アンド・ジョン・クロウ・マウンテンズジャマイカM(ⅲ)(ⅵ)(ⅹ)
2Arab-Norman Palermo and the Cathedral Churches of Cefalu and Monrealeパレルモのアラブ=ノルマン様式建造物群およびチェファル大聖堂、モンレアーレ大聖堂イタリアC(ⅱ)(ⅳ)
3Baptism Site “Bethany Beyond the Jordan” (Al-Maghtas)イエス・キリスト洗礼の地「ヨルダン川対岸のベタニア」(アル・マグタス)ヨルダンC(ⅲ)(ⅳ)(ⅵ)
4Rock Art in the Hail Region of Saudi Arabiaサウジアラビアのハーイル地方の岩絵サウジアラビアC(ⅰ)(ⅲ)
5Tusi Sites土司の遺跡群中国C(ⅱ)(ⅲ)
6SusaスーサイランC(ⅰ)(ⅱ)(ⅲ)(ⅳ)
7Cultural Landscape of Maymandマイマンドの文化的景観イランC(ⅴ)
8Singapore Botanic Gardensシンガポール植物園<シンガポールC(ⅱ)(ⅳ)
9Baekje Historic Areas百済の歴史地区韓国C(ⅱ)(ⅲ)
10Great Burkhan Khaldun Mountain and its surrounding sacred landscapeブルカン・カルドゥン山と周辺の神聖景観モンゴルC(ⅳ)(ⅵ)
11Christiansfeld, a Moravian Church Settlementモラヴィア教会の入植地クリスチャンスフェルドデンマークC(ⅲ)(ⅳ)
12The Par Force hunting landscape in North Zealandシェラン島北部のパル・フォルス式狩猟の景観デンマークC(ⅱ)(ⅳ)
13Climats, terroirs of Burgundyブルゴーニュ地方のブドウ栽培の風土フランスC(ⅲ)(ⅴ)
14Champagne Hillsides, Houses and Cellarsシャンパーニュの丘陵・家屋・地下貯蔵庫群フランスC(ⅲ)(ⅳ)(ⅵ)
15Diyarbakır Fortress and Hevsel Gardens Cultural Landscapeディヤルバクルの城塞とへヴセル庭園の文化的景観トルコC(ⅳ)(ⅵ)
16Rjukan . Notodden Industrial Heritage Siteリューカン・ノトデンの産業遺産ノルウェーC(ⅱ)(ⅳ)
17Speicherstadt and Kontorhaus District with Chilehausシュパイヒャーシュタット、コントルハウス地区およびチリハウスドイツC(ⅳ)
18Bet She’arim Necropolis . A landmark of Jewish Renewalベート・シェアリムのネクロポリス - ユダヤ人の再興を示す中心地イスラエルC(ⅱ)(ⅲ)
19The Forth Bridgeフォース鉄道橋英国C(ⅰ)(ⅳ)
20San Antonio Missionsサン・アントニオ・ミッションズ米国C(ⅱ)

灰色:2015年7月3日・4日の審議で登録された世界遺産。
※C:文化遺産、N:自然遺産、M:複合遺産
※登録基準の詳細はこちら
※出所:UNESCO World Heritage Centre プレスリリース①





Rjukan . Notodden Industrial Heritage Site
リューカン・ノトデンの産業遺産

ノルウェー 登録年:2015年 登録基準:(ⅱ)(ⅳ)



リューカン・ノトデンの産業遺産は、山々や滝・渓谷のあるダイナミックな景観の中に位置し、水力発電所・送電回線・工場・輸送施設・町で構成されています。これらの施設群は、ノルスク・ハイドロ社によって、空気から窒素を固定してできる人口肥料の生産のため創設されたもので、20世紀初頭のヨーロッパ諸国における農業生産への需要拡大を背景に建設されました。また、リューカンとノトデンの企業都市には、労働者のための宿泊施設や、人口肥料輸送のための鉄道やフェリーに関連する施設などがあります。これらは、産業遺産と自然景観の類まれな融合を示すものであり、20世紀初頭の新しいグローバル産業の事例としても特徴的です。
※詳細はこちら(WHC)




Speicherstadt and Kontorhaus District with Chilehaus
シュパイヒャーシュタット、コントルハウス地区およびチリハウス

ドイツ 登録年:2015年 登録基準:(ⅳ)



シュパイヒャーシュタット、コントルハウス地区は、港湾都市ハンブルクの都市部に位置しており、エルベ川の中州に1885年~1927年(一部は1949年~1967年)にかけて開発された場所です。これらの港湾倉庫群は世界でも最も巨大なもののひとつです。15の巨大な倉庫のブロックと6つの関連する建造物・水路のネットワークで構成されています。有名な近代建築であるチリハウスに隣接するコントルハウス地区は、5ヘクタールを超える面積を有し、港湾関連事業のために1920年代から1940年代に建設された6つオフィス街が特徴となっています。これらの建築物は19世紀後半から20世紀初頭にかけて、国際貿易が急速に拡大したことの影響を今に伝えています。
※詳細はこちら(WHC)




Bet She’arim Necropolis . A landmark of Jewish Renewal
ベート・シェアリムのネクロポリス - ユダヤ人の再興を示す中心地

イスラエル 登録年:2015年 登録基準:(ⅱ)(ⅲ)



ベート・シェアリムのネクロポリスは、紀元前2世紀以降に建設されたもので、複数のカタコンベで構成されています。これらはローマ帝国に対する第二次ユダヤ戦争(バル・コクバの乱)のあと、エルサレムの外につくられた初期ユダヤ教の墓地です。ベート・シェアリムのカタコンベは、ハイファの南東に位置し、ギリシア語・アラム語・ヘブライ語で書かれた絵画や碑文が残っているとともに、初期ユダヤ教の中心地として類まれな証拠となるものです。
※詳細はこちら(WHC)




The Forth Bridge
フォース鉄道橋

英国 登録年:2015年 登録基準:(ⅰ)(ⅳ)


スコトランドのフォース川河口付近にかかるフォース鉄道橋は、世界で最も長いカンチレバー橋です。1890年に開通されて以来現在まで乗客や貨物を運び続けており、その優れた造形美は、建築構成物をそのまま装飾なしで残しているためです。フォース鉄道橋は、構造・材質・規模の点で革新的であり、鉄道が唯一の長距離移動手段であった時代の、橋梁設計・建設の発展において画期的なものでした。
※詳細はこちら(WHC)




San Antonio Missions
サン・アントニオ・ミッションズ

米国 登録年:2015年 登録基準:(ⅱ)



サン・アントニオ・ミッションズは、テキサス州南部のサン・アントニオ川流域に位置する、5つの開拓時代のミッション施設と37km南部にある農園で構成されており、建築物・考古遺跡・農場・住居・教会・穀物倉・水利システムが含まれています。これらの建造物群は、18世紀にフランシスコ会ミッションによって建設されたもので、スペイン国王の植民活動や布教活動、そしてスペイン支配地域(ヌエバ・エスパーニャ)の北のフロンティアの防衛活動を象徴するものです。またサン・アントニオ・ミッションズは、スペイン人と先住民(Coahuiltecan)の文化の融合がみられ、カトリックのシンボルと自然崇拝に基づく土着のデザインが融合した教会の装飾など、様々な特徴が残っています。
※詳細はこちら(WHC)






以上、取り急ぎ、速報です。

本日(7/5)深夜までに、さらに新しい世界遺産が誕生する予定です。


世界遺産委員会のライブビューイングについてはこちら




●関連記事
 第39回世界遺産委員会の開催概要
 第39回世界遺産委員会:アジェンダ・タイムテーブル
 2015年の世界遺産候補(34件)
 2015年に指定された危機遺産





【速報】2015年に登録された世界遺産④:第39回世界遺産委員会決議事項(5)

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第39回世界遺産委員会の決議事項の速報です。

新規登録審議が終了し、さらに4件の新しい世界遺産が誕生しました!
「明治日本の産業革命遺産」も無事登録されました。

今年登録された新しい世界遺産は、合計で24件、世界遺産の登録件数はすべてあわせて「1,031件」となりました。


 危機遺産の指定/指定解除 (2015/07/02)
 登録範囲の拡大 (2015/07/03)
 新しい世界遺産の登録① (2015/07/03)
 新しい世界遺産の登録② (2015/07/04)
 新しい世界遺産の登録③ (2015/07/05 AM)





■【速報】2015年に登録された世界遺産④:第39回世界遺産委員会


●2015年に登録された世界遺産④ (2015/07/05 PM)

No名称名称(仮訳)国名区分登録基準
1Blue and John Crow Mountainsブルー・アンド・ジョン・クロウ・マウンテンズジャマイカM(ⅲ)(ⅵ)(ⅹ)
2Arab-Norman Palermo and the Cathedral Churches of Cefalu and Monrealeパレルモのアラブ=ノルマン様式建造物群およびチェファル大聖堂、モンレアーレ大聖堂イタリアC(ⅱ)(ⅳ)
3Baptism Site “Bethany Beyond the Jordan” (Al-Maghtas)イエス・キリスト洗礼の地「ヨルダン川対岸のベタニア」(アル・マグタス)ヨルダンC(ⅲ)(ⅳ)(ⅵ)
4Rock Art in the Hail Region of Saudi Arabiaサウジアラビアのハーイル地方の岩絵サウジアラビアC(ⅰ)(ⅲ)
5Tusi Sites土司の遺跡群中国C(ⅱ)(ⅲ)
6SusaスーサイランC(ⅰ)(ⅱ)(ⅲ)(ⅳ)
7Cultural Landscape of Maymandマイマンドの文化的景観イランC(ⅴ)
8Singapore Botanic Gardensシンガポール植物園<シンガポールC(ⅱ)(ⅳ)
9Baekje Historic Areas百済の歴史地区韓国C(ⅱ)(ⅲ)
10Great Burkhan Khaldun Mountain and its surrounding sacred landscapeブルカン・カルドゥン山と周辺の神聖景観モンゴルC(ⅳ)(ⅵ)
11Christiansfeld, a Moravian Church Settlementモラヴィア教会の入植地クリスチャンスフェルドデンマークC(ⅲ)(ⅳ)
12The Par Force hunting landscape in North Zealandシェラン島北部のパル・フォルス式狩猟の景観デンマークC(ⅱ)(ⅳ)
13Climats, terroirs of Burgundyブルゴーニュ地方のブドウ栽培の風土フランスC(ⅲ)(ⅴ)
14Champagne Hillsides, Houses and Cellarsシャンパーニュの丘陵・家屋・地下貯蔵庫群フランスC(ⅲ)(ⅳ)(ⅵ)
15Diyarbakır Fortress and Hevsel Gardens Cultural Landscapeディヤルバクルの城塞とへヴセル庭園の文化的景観トルコC(ⅳ)(ⅵ)
16Rjukan . Notodden Industrial Heritage Siteリューカン・ノトデンの産業遺産ノルウェーC(ⅱ)(ⅳ)
17Speicherstadt and Kontorhaus District with Chilehausシュパイヒャーシュタット、コントルハウス地区およびチリハウスドイツC(ⅳ)
18Bet She’arim Necropolis . A landmark of Jewish Renewalベート・シェアリムのネクロポリス - ユダヤ人の再興を示す中心地イスラエルC(ⅱ)(ⅲ)
19The Forth Bridgeフォース鉄道橋英国C(ⅰ)(ⅳ)
20San Antonio Missionsサン・アントニオ・ミッションズ米国C(ⅱ)
21Sites of Japan’s Meiji Industrial Revolution: Iron and Steel, Shipbuilding and Coal Mining明治日本の産業革命遺産 製鉄・鉄鋼、造船、石炭産業日本C(ⅱ)(ⅳ)
22EphesusエフェソストルコC(ⅲ)(ⅳ)(ⅵ)
23Aqueduct of Padre Tembleque, Hydraulic Systemパドレ・テンブレケの水道橋・水利施設群メキシコC(ⅰ)(ⅱ)(ⅳ)
24Fray Bentos Cultural-Industrial Landscapeフライ・ベントスの文化的産業景観ウルグアイC(ⅱ)(ⅳ)

灰色:2015年7月3日・4日・5日午前の審議で登録された世界遺産。
※C:文化遺産、N:自然遺産、M:複合遺産
※登録基準の詳細はこちら
※出所:UNESCO World Heritage Centre プレスリリース①




Sites of Japan’s Meiji Industrial Revolution: Iron and Steel, Shipbuilding and Coal Mining
明治日本の産業革命遺産 製鉄・鉄鋼、造船、石炭産業

日本 登録年:2015年 登録基準:(ⅱ)(ⅳ)



※詳細はこちら(WHC)




Ephesus
エフェソス

トルコ 登録年:2015年 登録基準:(ⅲ)(ⅳ)



※詳細はこちら(WHC)



Aqueduct of Padre Tembleque, Hydraulic System
パドレ・テンブレケの水道橋・水利施設群

メキシコ 登録年:2015年 登録基準:(ⅰ)(ⅱ)



※詳細はこちら(WHC)




Fray Bentos Cultural-Industrial Landscape
フライ・ベントスの文化的産業景観

ウルグアイ 登録年:2015年 登録基準:(ⅱ)(ⅳ)


 
※詳細はこちら(WHC)





●登録変更に関する審議

また、以下の世界遺産の登録範囲が変更になりました。

Routes of Santiago in Northern Spain [Routes of Santiago de Compostela]
スペイン北部のサンティアゴ巡礼路 [サンティアゴ・デ・コンポステーラの巡礼路]

スペイン 登録年:1993年 登録基準:(ⅱ)(ⅳ)(ⅵ)



スペイン国内に残るサンティアゴへの巡礼路のうち、これまで登録されていた内陸のルートに加え、海岸沿いのルートなどが追加されました。
詳細はこちら(WHC)






以上、取り急ぎ、速報です。




●関連記事
 第39回世界遺産委員会の開催概要
 第39回世界遺産委員会:アジェンダ・タイムテーブル
 2015年の世界遺産候補(34件)
 2015年に指定された危機遺産









【まとめ】2015年新規登録された世界遺産の一覧:第39回世界遺産委員会決議事項

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2015年に登録された世界遺産について一覧表でまとめておきます。

 各世界遺産の詳細はこちらの記事をどうぞ
 2015年に指定/指定解除された危機遺産はこちら




■2015年新規登録された世界遺産の一覧
 New Inscriptions on the World Heritage List in 2015



●2015年に登録された世界遺産の件数

今年の世界遺産委員会では、文化遺産23件・複合遺産1件の合計24件が新たに世界遺産として登録されました。
ちなみに、自然遺産の登録がゼロ件だったのは初めてのことです。(たまたまでしょうけど)

2015年登録
文化遺産23
自然遺産0
複合遺産1
合 計24

※出所:UNESCO World Heritage Centre




●世界遺産の総数の推移

この結果、現在登録されている世界遺産は合計で「1,031件」となりました。
これまでの登録件数の推移はこちらです。

2009年度2010年度2011年度2012年度2013年度2014年度2015年度
文化遺産689704725745759779802
自然遺産176180183188193197197
複合遺産25272829293132
合 計8909119369629811,0071,031

※参考記事
 2014年に登録された世界遺産(26件)
 2013年に登録された世界遺産(19件)




●2015年に誕生した世界遺産の一覧

さて、2015年に誕生した世界遺産の一覧がこちらです。

No名称名称(仮訳)国名区分登録基準地図
1Blue and John Crow Mountainsブルー・アンド・ジョン・クロウ・マウンテンズジャマイカNEWM(ⅲ)(ⅵ)(ⅹ)U
2Arab-Norman Palermo and the Cathedral Churches of Cefalu and Monrealeパレルモのアラブ=ノルマン様式建造物群およびチェファル大聖堂、モンレアーレ大聖堂イタリアC(ⅱ)(ⅳ)A
3Baptism Site “Bethany Beyond the Jordan” (Al-Maghtas)イエス・キリスト洗礼の地「ヨルダン川対岸のベタニア」(アル・マグタス)ヨルダンC(ⅲ)(ⅳ)(ⅵ)L
4Rock Art in the Hail Region of Saudi Arabiaサウジアラビアのハーイル地方の岩絵サウジアラビアC(ⅰ)(ⅲ)M
5Tusi Sites土司の遺跡群中国C(ⅱ)(ⅲ)N
6SusaスーサイランC(ⅰ)(ⅱ)(ⅲ)(ⅳ)O
7Cultural Landscape of Maymandマイマンドの文化的景観イランC(ⅴ)P
8Singapore Botanic Gardensシンガポール植物園<シンガポールNEWC(ⅱ)(ⅳ)Q
9Baekje Historic Areas百済の歴史地区韓国C(ⅱ)(ⅲ)R
10Great Burkhan Khaldun Mountain and its surrounding sacred landscapeブルカン・カルドゥン山と周辺の神聖景観モンゴルC(ⅳ)(ⅵ)S
11Christiansfeld, a Moravian Church Settlementモラヴィア教会の入植地クリスチャンスフェルドデンマークC(ⅲ)(ⅳ)B
12The Par Force hunting landscape in North Zealandシェラン島北部のパル・フォルス式狩猟の景観デンマークC(ⅱ)(ⅳ)C
13Climats, terroirs of Burgundyブルゴーニュ地方のブドウ栽培の風土フランスC(ⅲ)(ⅴ)D
14Champagne Hillsides, Houses and Cellarsシャンパーニュの丘陵・家屋・地下貯蔵庫群フランスC(ⅲ)(ⅳ)(ⅵ)E
15Diyarbakır Fortress and Hevsel Gardens Cultural Landscapeディヤルバクルの城塞とへヴセル庭園の文化的景観トルコC(ⅳ)(ⅵ)F
16Rjukan . Notodden Industrial Heritage Siteリューカン・ノトデンの産業遺産ノルウェーC(ⅱ)(ⅳ)G
17Speicherstadt and Kontorhaus District with Chilehausシュパイヒャーシュタット、コントルハウス地区およびチリハウスドイツC(ⅳ)H
18Necropolis of Bet She’arim: A Landmark of Jewish Renewalベート・シェアリムのネクロポリス - ユダヤ人の再興を示す中心地イスラエルC(ⅱ)(ⅲ)I
19The Forth Bridgeフォース鉄道橋英国C(ⅰ)(ⅳ)J
20San Antonio Missionsサン・アントニオ・ミッションズ米国C(ⅱ)V
21Sites of Japan’s Meiji Industrial Revolution: Iron and Steel, Shipbuilding and Coal Mining明治日本の産業革命遺産 製鉄・鉄鋼、造船、石炭産業日本C(ⅱ)(ⅳ)T
22EphesusエフェソストルコC(ⅲ)(ⅳ)(ⅵ)K
23Aqueduct of Padre Tembleque, Hydraulic Systemパドレ・テンブレケの水道橋・水利施設群メキシコC(ⅰ)(ⅱ)(ⅳ)W
24Fray Bentos Cultural-Industrial Landscapeフライ・ベントスの文化的産業景観ウルグアイC(ⅱ)(ⅳ)X

※C:文化遺産、N:自然遺産、M:複合遺産
※登録基準の詳細はこちら
※地図:各世界遺産の中心地の地図にリンクしています。(Google Map)
※出所UNESCO World Heritage Centre

各世界遺産の詳細はこちらの記事をどうぞ


これらの世界遺産の所在地を地図にしたのがこちらです。上記の表の「地図」の列にあるアルファベットと対応しています。


▲2015年に誕生した世界遺産の地図(ヨーロッパ周辺)


▲2015年に誕生した世界遺産の地図(アジア周辺)


▲2015年に誕生した世界遺産の地図(南北アメリカ)




●2015年に登録範囲の変更があった世界遺産の一覧

また、登録範囲に重要な変更があったのが以下の3件の世界遺産です。

No名称名称(仮訳)国名登録区分登録基準
1Cape Floral Region Protected Areasケープ植物区保護地域群南アフリカ2004年N(ⅸ)(ⅹ)
2Phong Nha - Ke Bang National Parkフォンニャ=ケバン国立公園ベトナム2003年N(ⅷ)+(ⅸ)(ⅹ)
3Routes of Santiago de Compostela: Camino Francés and Routes of Northern Spainサンティアゴ・デ・コンポステーラの巡礼路:カミオ・フランセスとスペイン北部巡礼路スペイン1993年C(ⅱ)(ⅳ)(ⅵ)

※C:文化遺産、N:自然遺産、M:複合遺産
※登録基準の詳細はこちら
※出所UNESCO World Heritage Centre



Cape Floral Region Protected Areas
ケープ植物区保護地域群

南アフリカ 登録年:2004年 登録基準:(ⅸ)(ⅹ)

登録済みの8つの保護区から5つの保護区を追加し、全体で553,000ha→1,094,741haのコアエリアと周辺のバッファーゾーンに拡大されました。面積としては2倍近くになるほどです。(登録済みの保護区の範囲拡大も含まれます)
詳細はこちら(WHC)
※出所:UNESCO World Heritage Centre



Phong Nha - Ke Bang National Park
フォンニャ=ケバン国立公園

ベトナム 登録年:2003年 登録基準:(ⅷ)+(ⅸ)(ⅹ)

登録基準:(ⅸ)(ⅹ)の追加が承認されました。2003年の登録当初からこの国立公園内の貴重な生態系が世界遺産の登録基準(ⅸ)(ⅹ)に合致する可能性が議論されてきましたが、保全体制の不備などを理由に見送られてきました。2013年に国立公園の範囲が拡大されるなど、保全体制の強化が推進され今回の決議に至っています。
詳細はこちら(WHC)
※出所:UNESCO World Heritage Centre




Routes of Santiago de Compostela: Camino Francés and Routes of Northern Spain
サンティアゴ・デ・コンポステーラの巡礼路:カミオ・フランセスとスペイン北部巡礼路

スペイン 登録年:1993年 登録基準:(ⅱ)(ⅳ)(ⅵ)



スペイン国内に残るサンティアゴへの巡礼路のうち、これまで登録されていた内陸のルートに加え、海岸沿いのルートなどが追加されました。また、名称にサブタイトルがつけられました。
詳細はこちら(WHC)




●諮問機関の勧告は・・?

ちなみに、過去数年に「登録された世界遺産」について、諮問機関が事前にどのような勧告をしていたかを表にしました。

登録年IRDN合計
2005年2400024
2006年1242018
2007年17.52.52022
2008年1962027
2009年1120013
2010年975021
2011年122.510.5025
2012年14.56.54126
2013年1720019
2014年1528126
2015年1950024
合計17039.533.52245

※I:記載、R:情報照会、D:記載延期、N:不記載。
※複合遺産については諮問機関(IUCN/ICOMOS)それぞれの勧告を「0.5」としてカウント。


これをグラフにするとこんな感じです。

諮問機関が「登録にあたってもう少し情報が必要(R)」あるいは「登録を延期すべき(D)」とアドバイスしたのに対し、世界遺産委員会で「逆転勝利」した事例が散見されます。




こうした状況は、世界遺産委員会での「ロビー活動」によるものも含まれており、「科学的」な意思決定をすべき世界遺産委員会の「信用」にかかわる問題とされています。
※今年は「D(記載延期)」からの2段階アップはありませんでしたが。



以上が、今年の新規登録案件に関する一覧でした。



各世界遺産の詳細はこちらの記事をどうぞ




●関連記事
 2014年に登録された世界遺産(26件)
 第39回世界遺産委員会の開催概要
 2015年の世界遺産候補(34件)
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